フィリピンの回教徒、パラワン島に見たイスラム共同体
イスラム教徒としての適正な宗教教育とは
余談ではあるが、筆者はかねてからイスラムの宗教教育について疑問を抱いていた。イスラム教が盛んな中東・北アフリカ・西南アジアでは、アラビア語やイスラム教学を中心としたカリキュラムのイスラム学校“マドラサ”が多数ある。筆者の見聞ではイランやパキスタンなどのマドラサでは、アラビア語とコーランの暗唱が授業時間の大半を占め、英語・数学・科学などの科目が疎かになっている。 そのためマドラサだけで教育を終えた若者は高度な専門的職業に就けない。ひいては社会全体が停滞する原因にもなっていると聞いた。アフガニスタンのタリバン政権下の学校ではイスラム教偏重教育が強いられ子供たちの将来が危惧される。
屋根付きバスケットボール・コートの被災者避難所
小学校からさらに5分ほど海に向かって歩いていると、屋根付きバスケ・コートの壁一面に洗濯物が干されているのが見えた。コートいっぱいに色とりどりのテントが所狭しとばかりに張られている。テントごとに家族が暮らしている。 このバスケ・コートは本来地域の町内会事務所の付属施設のようだ。フィリピンの町内会であるバランガイ(Barangay)は市町村の最小行政単位である。町角に事務所があり、しばしばバスケ・コートが併設されている。 事務所の入り口に「避難センター情報掲示板」があった。大火災で被害をうけた被災者家族の詳細だ。受入家族:累計55家族、現在48家族、受入被災者:累計188人、現在171人、内訳は男性100人、女性71人。乳児2人、幼児8人、幼稚園5人、小学生14人、13~19歳・14人、20~59歳・115人、60歳以上13人。 現有設備として共同調理場、水浴場2カ所、トイレ3カ所、水道蛇口9カ所、洗濯場2カ所が稼働。役場の職員がマネージャーとして常駐しているらしい。 事務所に入り挨拶するとマネージャーの女性が対応してくれた。近くの海岸の海上集落で3カ月前に火災が発生して百数十世帯が罹災して家を失った。役所がこのバスケ・コートと近くのもう一つのコートに避難所を開設。役所では被災者のために仮設住宅を建設中で2週間後に入居できる予定であると。 被災家族はすべてイスラム教徒であり、近くの回教寺院(モスク)が支援しているという。事務所には髭を蓄えた老人がおり、マネージャーは筆者に老人がモスクのイマム(宗教指導者)であると紹介した。残念ながらイマムは英語があまり話せないらしい。マネージャーによるとイマムはモスクに寄せられた喜捨(ザカート)で避難所に必要な物資を調達してくれるという。また毎日避難所に来て避難民家族の相談に乗ったり、トラブルの仲裁を行ったりしているという。 モスクが役所と連携して避難所の運営を支援して、さらに宗教指導者は住民の日常生活を精神面からも支えている。イスラム教徒の生活共同体におけるモスクおよび宗教指導者の存在意義が分かってきた。