「必要以上に劣等感を抱いてしまって…」甲子園で“全国制覇→準優勝”の名門が秋大会敗退で「3季続けて全国不出場」の異例…監督が語ったホンネは?
2022年夏の甲子園で東北初の全国制覇を達成し、翌年も慶應高との決勝戦の末、準優勝に輝いた宮城の仙台育英高。須江航監督のクレバーな野球観とともに、一躍、令和の高校野球を引っ張る旗手となった。その名門がいま、監督就任以来初となる3季連続で甲子園を逃すなど、まさかの苦境にあえいでいる。果たしてチームに今、一体何が起こっているのだろうか。《前後編の前編/後編を読む》 【写真で比較】「わ、若い…顔が全然違う!」今から20年前、ブレザーの似合う「高校生記録員」時代の須江監督の貴重写真&昨夏の甲子園での仙台育英の奮闘も見る(50枚超) 秋の大会へ向かう道程は間違っていなかったと、須江航は思っている。 今年の夏。仙台育英は宮城大会の決勝で敗れた。チームを率いる須江はいつも、試合に負けると敗因を徹底検証する。 ベンチ入りメンバーの人選。試合で起用した選手や交代のタイミングといった根本的な要素からスキルやフィジカルの習熟度を数値化、公式戦に臨むまでの練習への取り組みに競争意識、個々の時間の管理や道具の整理、グラウンド整備……。これらを細部に至るまでチェック項目を設けて選手へのヒアリングを重ねる。「どこに隙があったのか?」と掘り下げ、次への勝利へと繋げてきた。
一昨年の全国制覇→昨年の準優勝を「一旦、封印」
新チームの始動にあたって、須江がチームに号令を掛ける。 「本当のゼロからスタートしようよ」 これは2022年夏の全国制覇、翌23年夏の甲子園準優勝の栄冠を一旦、封印することにもなるのだが、変革はすぐには訪れない。 「今までだってこれで勝ってきたんだから、そこまで厳しくやらなくても別によくない?」 日本一となった先輩を知る選手のなかには、懐疑的で二の足を踏む者も当然いた。 「そういう意識だから勝てないんですよ!」 涙ながらに声を荒げる1年生ショートの今野琉成のように、次第に骨のある選手も増えていく。監督が「思考力と言語力に長け、背中で取り組みを見せられる秀逸なリーダータイプ」と評価する、下級生時代から主力であるキャプテンの佐々木義恭と副キャプテンの土屋璃空が、まとまり切れないチームを束ねていく。 これまでの「それぞれ課題に向き合いながら練習する」といった慣例以上に、理屈抜きで量をこなすことにも注力するなど、新たなメンタリティを熟成していった。 内面と波長を合わせるかのように、外面のチーム力も養っていった。佐々木や土屋をはじめ、野手は前世代からの経験者がそれなりに顔を揃えるが、ピッチャーが懸案事項だった。それも、チームの精神が成長するにつれ、夏にメンバーから漏れた悔しさを糧に這い上がったエース左腕の吉川陽大に加え、1年生左腕の井須大史が台頭。 秋を迎える頃には、「どこと対戦しても、しっかり野球ができれば必ず結果がついてくる」と監督も手応えを抱けるだけのチームに仕上がった。 須江が約2カ月の歩みをしみじみ紡ぐ。 「甲子園優勝と準優勝という、強烈な成功体験があるなかで、これまで安定的に滾々と積み上げてきたチームの伝統とかを全部見つめ直して改善するとか、より良いものを作り上げていく作業というのは、とてつもないエネルギーを使うわけです。それでも、僕も選手も毎日、頭を悩ませながら、葛藤しながらも意見をぶつけ合ってきましたし、練習も本当によくやりました。期間はたった2カ月かもしれないですけど、1年分くらいやったような充実感を覚えたくらいなんです」 監督がチームの成長を誇るように、仙台育英は秋の宮城大会を1点も許さず制した。 だが、「優勝候補」と評された東北大会では、弘前学院聖愛との初戦を4-0でものにするも、準々決勝の聖光学院戦で2-3と敗北した。
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