「必要以上に劣等感を抱いてしまって…」甲子園で“全国制覇→準優勝”の名門が秋大会敗退で「3季続けて全国不出場」の異例…監督が語ったホンネは?
ロジカルな須江監督が「精神論」を語った真意
須江は弁が立つ監督である。負けた試合こそ潔く、相手チームを称えながら自分たちの反省や課題を、報道陣にわかりやすく説明してくれるほどである。 聖光学院戦後、それまでと異なる須江がいた。いつもなら抽象的な言葉を避けるようにロジカルに対応してきた監督が、「心」や「魂」といった表現を多用していたのである。 そこに違和感があったと正直に伝えると、須江が今度は論理的に説明を展開した。 「一周したってことですね。中学野球を教えていた最初の頃というのは、それこそ気合いや根性を前面に出して指導をしていました。それで勝てなくて、試合のデータや選手の数値化を重視するようになって全国優勝できた経験があったので、仙台育英の監督になってもそれを継続して。 それを今回、もう一度、見つめ直したということなんですよ。チームをゼロから作り直すということは、根底にあるものと向き合わなければ前に進めませんからね」 須江は野球を“見える化”したことで、高校野球に一石を投じた。 ピッチャーはストレートの速さや各球種の変化量などからタイプ別に分け、登板は完全ローテーションで分業制を敷いた。野手に関しても出塁率や長打力を基にして選手の特性を細分化し、その時点でチームに必要なピースを的確にはめ込んでいった。競争力が増し、選手層が分厚くなったチームは、22年夏に東北勢として初の日本一の悲願を達成すると、翌年の夏にも甲子園準優勝と、実力が本物であることを高校野球界に印象付けた。 この「強烈な成功体験」はしかし、皮肉なことにチームの足かせとなってしまう。 歯車のズレが生じ始めたのは、甲子園準優勝後に行われた秋の宮城大会である。準々決勝の東陵戦で1-2と不覚を取り、翌春のセンバツ出場が絶たれ、4季連続での甲子園出場を逃した。
甲子園で2年連続決勝…ちらついた「過去チームの幻影」
当時こそ「監督の自分が、選手のパフォーマンスを最大限に発揮させる人選ができませんでした」と自戒していたが、今にして思えば、ここが発端だったとわかる。 「前の2年間と比べて劇的にレベルが下がるチームかと言ったら、そんなことはなかったんです。それが、あの負けから選手たちが必要以上に劣等感を抱いてしまって。先輩たちと自分たちは関係ないのに、『比較されている』という被害妄想に陥ってしまったというか、過去のチームの亡霊みたいなものに憑かれていったような状態になっていましたね」 確かに2年連続で甲子園の決勝まで進んで以降の仙台育英は、少しちぐはぐだった。 今までのチームならば、ピッチャーを中心とした強固なディフェンス力が最大のストロングポイントだったはずが、23年の秋からチーム育成のふり幅を攻撃にシフトした。そのことにより、今年春の東北大会の弘前学院聖愛戦で4つのエラーを喫して敗れるなど、守備の脆さを露呈してしまっていた。 「守りの仙台育英をもう一度、作ります」 須江はこの試合後に宣言し、夏には最速154キロ右腕のエース・山口廉王や安定感のある佐々木広太郎ら、3年生を中心とした盤石な投手陣を形成できた。だが、監督が「秋から苦しい期間を経て成長してくれた」と評価していたチームは、夏の宮城大会決勝で聖和学園に屈した。 それは、「選手にとって形容しがたい負けだった」という。 「今年の3年生というのは、1年生で優勝、2年生で準優勝を見せられた特殊な世代だったじゃないですか。『先輩たちとは違うんだ』と証明するために、まずは自分たちの代で甲子園に出る必要があって、本当に苦労しながら野球に取り組んできて。それでも甲子園に届かなかった。その悔しさというのは、これまでとはレベルが違うわけです」 捲土重来を期した秋も、ゼロから築き上げたチームは敗れ、来春のセンバツ出場も絶望的となった。須江が18年に仙台育英の監督となってから、3季連続で甲子園を逃すことになる現実は初めてのことである。 声のトーンを下げ、須江が心情を漏らす。 「なんか、ずっともやもやしていたというか、どうにもこうにもうまくいかなかった……。なんて表現したらいいのかな? 1年間、別の空間にいたような気がしています」 これは本音であっても弱音ではない。須江は、敗北という苦みを芳醇で味わい深いチームへと熟成させられる指導者だ。
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