無理は禁物、「共倒れ」だけは避けて! あなたにも訪れる認知症介護「施設どき」の見極めかた
どんな人にも、施設に頼るべき“施設どき”がある
“施設にお年寄りを入居させる”と言うと、「かわいそうだ」とか、「つらくてとてもできない」という意見が出てくることがあります。そのような見方を全面的に否定するつもりはありませんが、こと認知症介護について言えば、情や世間体に構っていられない場合もあると思います。その意味で、どんな介護にも施設に頼るべき「施設どき」というものがあります。 たとえば次のような場合も“そのとき”が来ていると言えます。ある家族は、お嫁さんが認知症の義母を介護していました。ある日、お嫁さんがパートから帰ってみると、家の中が羽毛だらけになっていて、ひどい便臭がしています。一体どうしたのでしょうか。 実は認知症の義母が羽毛布団を破き、自分の排泄物を放り込んでこねくりまわした後、それを部屋中にまき散らしたのでした。義母がこのようなことをたびたびするので、家族全員が後始末に追われ、疲れ切っていました。 排泄物がほこりと一緒に空気中を舞っているような状態は、認知症の本人にはもちろん、家族にも有害な環境だと言えます。悪くすると感染症にかかるかもしれません。もはや家族で対応できるレベルとは言えないでしょう。 このように、誰にとっても劣悪な状態が生じるようであれば、介護家族が生きる気力を失わないうちに施設利用を検討すべきだし、介護職もそれを勧めたほうがいいのではないでしょうか。 介護には迷いと後悔がつきものです。お年寄りに施設に入居していただく前後なども、介護者は「これでいいのか」と迷い、「やっぱり家で看ることもできたのでは」と後悔するものです。 ですが、認知症介護はどこかで「これでよし」と思い切ることも必要です。施設を利用しなかったがために不慮の事故が起こったり、家族共倒れになったりすれば、“大きな後悔”が残ります。介護者が、とりわけ家族が「もう十分やった」と心の底から思えるなら、それで十分ではないでしょうか。小さな後悔ですんでいるうちに切り替えるという考え方も必要なはずです。
右馬埜 節子