ミスを指摘されたとき「すぐ言い訳する人」と「誠実に受け止められる人」の決定的な差
いまビジネスの現場では、マネジメント層が若手に対して指導したいこと・改善してほしいことがあっても、「ハラスメント」になるのを恐れてなかなか言い出せずにいる。一方で若手の側も、上司への不満は立場的に口にしづらい。結果的に、お互いが言いたいことを言えずにストレスを溜めこんでいるのが現状だ。 そこで今回は、2024年上半期・2023年ベストセラーランキングビジネス書部門で1位(日販/トーハン調べ)となり、「もっと早く読んでいればと後悔すらした」「ぶっ刺さりすぎて声出た」と反響を呼び続けている『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉さんと、人材育成や組織基盤の構築支援を行なっている株式会社Momentor代表の坂井風太さんに、読者から寄せられた仕事の悩みにご回答いただいた。(構成/ダイヤモンド社コンテンツビジネス部) ● 「パワハラだ!」と騒がれるのを防ぐ方法 【読者からのお悩み】 若手の育成において、パワハラと指導の境界線はどこにあると思いますか? 安達裕哉(以下、安達) 大前提として、厚生労働省の定義では、職務上の優越的な地位を利用し、業務の適正な範囲を超えて、身体的な苦痛や精神的な苦しみなどを与えることがパワハラだとされています。 まずは、「パワハラ」と認定される諸条件をきちんと把握しておくことが大切だと思います。 坂井風太(以下、坂井) 「指導」という言葉は少し抽象的なので、「パワハラと成長支援の境界線はどこにあるか?」という問いに言い換えると、ポイントが明確になると思います。 たとえば、部下に対して「○○ができてないよ」とネガティブなことだけに言及すると、キツい印象を与えてしまうかもしれません。一方で、「○○ができてないけど、何に注意すればよかったと思う?」と改善を促すひとことがあれば、成長支援になるわけです。 安達 部下に苦言を呈するとすぐ「パワハラだ!」と騒がれかねない時代ですが、ある程度は苦言を呈さないと仕事にならない側面もあるので、「成長支援」につながる伝え方は非常に重要だと思います。 坂井 あとは、上司が本当に成長支援をする気があるのか、それとも自分の有能さを見せつけたいだけなのかという違いもあるでしょうね。 ● 「すぐ言い訳する人」と「誠実に受け止められる人」の違い 安達 上司からのネガティブフィードバックを、「自分のため」を思っての発言だとポジティブに受け取れる人と、「自分がけなされた」と感じる人と、二極に分かれそうな気がします。 坂井 そうですね。なので、上司が伝え方を工夫するのも大事ですが、部下の「コーチャビリティ=コーチングに対する受容力」を高めてあげることが先決だと思います。 安達 コーチャビリティは、かなり個人差があるでしょうね。ミスを少し指摘されただけでカッとなって言い返したり、すぐ言い訳したりする人がいるかと思えば、多少厳しいことを言われても「ありがとうございます」と誠実に受け止められる人もいます。 この差はどこにあると思いますか? 坂井 自分の行動や意見の妥当性を客観的に吟味できる「知的謙虚さ」という資質が、コーチャビリティを左右すると私は考えています。知的謙虚さを中庸とすると、その両極にあるのが「知的傲慢」と「知的卑屈」の状態です。 「知的傲慢」とは、自分の持っているスキルが十分に高いと考え、他者から学ぼうとしない態度です。「知的卑屈」は、自分の持っているスキルが低すぎて、「できる気がしない」と考えてしまう態度のことです。 部下がどの状態にあるかを、上司が外から見極めるのは難しいので、各メンバーに「仕事には知的謙虚さが必要だ」ということを理解させ、「自分はいま知的謙虚さを失っていないか」という視点を忘れないように注意喚起するといいかもしれませんね。 安達 個人的には、「アドバイスを聞く気がない人」の成長支援をするのは難しくて、正直なところ放置するしかないと思ってしまいます。 坂井 それは、「伝説的なリーダー」とも称されるビル・キャンベル氏の考え方に近いですね。 安達 おっしゃる通りで、じつはキャンベル氏は、「コーチャビリティの高い人間にしか指導しない」というかなり冷酷な考えの持ち主なんですよね。彼は、1度面談した相手が話を聞かなさそうだと判断したら、「もう教えてやらない」と切り捨てる人です。 坂井 本来、コーチャビリティは訓練で高められる能力です。ただ、キャンベル氏は経営者なので、業務のポートフォリオとして、人材育成にどのくらい時間を割くべきかを相当シビアに考えたんだと思います。 安達 そうですね。時間対効果が大きい人に指導の時間を多く使うのは、ある意味で非常に合理的ですし、経営層や管理職は忙しいので、業務の時間配分をうまく行えるかどうかは死活問題です。 部下への個別指導の時間は効率的に使いつつ、「知的謙虚さ」を組織全体として高めていくのが理想的でしょうね。 (本稿は、『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏の対談記事です) 安達裕哉(あだち・ゆうや) Books&Apps運営、企業コンサルティング Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営する一方で、企業の現場でコンサルティング活動を行う。著書に、2024年上半期・2023年ベストセラーランキングビジネス書部門で1位(日販/トーハン調べ)となった『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)など。
安達裕哉