揺らぐ国際経済都市・香港 「国家安全法制」で“頭脳”流出危機
中国政府による「香港国家安全維持法案」は、今月28日から30日まで北京で開かれる全国人民代表者大会(全人代)の常務委員会で制定に向けた最終的なプロセスに入り、香港返還の記念日でもある7月1日に間に合うように可決される見通しが強まった。香港国家安全維持法が制定された場合、中国政府は香港に治安維持目的で新たな機関を設置することを示唆しており、中国当局は新設される機関を使って「中国の脅威となる香港人」を直接訴追することができるようになる。しかし、「中国への脅威」がどんなものかについて明確にされておらず、それが香港人の不安と不満の両方を増大させているのも事実だ。これまで「一国二制度」という特殊なシステムの中で、自由な生活や経済活動が保障されていた香港だが、こうした自由が失われる懸念から他国への移住を検討する市民が急増している。 【写真】収束見えない香港デモ 「一国二制度」の行方は?
香港で最も検索の多い言葉が「移住」
今月3日に行われた東京・外国特派員協会によるリモート会見で、香港の民主活動家アグネス・チョウさんやジョシュア・ウォンさんに話を聞くことができた。「このまま北京政府の締め付けが厳しくなった場合、香港を離れて他国に移住する人が急増するのではという見方があるが、香港人が大挙して出国する可能性はあるのか」という私の質問に、アグネスさんは「現在の香港で最もネット検索されているのが移住という言葉です」と語り、中国が制定を進める国家安全維持法が市民に移住を真剣に考えさせる原因となっていると主張した。 中国が香港への国家安全維持法制の導入を決めたことで、香港市民がこれまで享受してきた自由と経済的な活力がなくなってしまう可能性がある。また、社会制度が変わる可能性がある香港に見切りをつけた人たちが海外移住を選択することで、“頭脳”が流出するというリスクも大きな問題として浮上している。 香港のシンクタンクが最近実施した調査では、回答者の7割が香港の未来に自信が持てないと答えている。イギリスのジョンソン首相は今月3日、中国政府が香港で国家安全維持法を導入した場合、約300万人(香港の総人口の約半分)にイギリスの市民権を取得できるようにすると発表した。同じように香港人の受け入れについて言及したのが台湾だ。