香港デモに暴力的な介入 警察から失われつつある市民の信頼
香港で6月から本格化し、現在も続く反政府デモでは、参加者が行政側に5つの要求を行い、そのうちの1つ(逃亡犯条例改正の撤廃)は9月4日、実現に至った。残る4つの要求に含まれているのが、香港警察によるデモ参加者らへの暴力に対する責任追及と、実態を調査する第三者機関の設置だ。週末の9月28日と、中国建国70周年の節目になる10月1日には、新たな大規模デモが計画されており、香港行政府と北京政府の対応に注目が集まる。そんな中、警察に対する信頼が高かった香港ではこの3か月の間、デモに関係ない市民が拘束される事例が出始め、警察の評判は地に落ちつつある。 【動画】香港で再び大規模デモ 地下鉄駅の周辺で警察と衝突(9月15日)
市民を執拗に殴り続け、催涙ガスで排除
逃亡犯条例改正案の撤廃を求める市民らが大規模なデモを開始してから、香港は9月14日に15回目の週末を迎えた。6月から本格的に始まったデモは現在も終息する気配を全く見せていない。16日には警察が警棒や催涙ガス、放水車などを使ってデモ隊に実力行使を開始してから100日目に突入し、香港警察内部における最大の組合組織は「火炎瓶などによる攻撃で、現場の警察官の安全が確保できない場合は実弾の使用もありうる」との声明を発表。香港警察のスティーブン・ロー警視総監も、「非常に困難な状況下で仕事を全うしてくれている」と語り、全ての警察官を全面的に支持することを強調した。
しかし、多くの市民が香港警察に抱く感情は、支持といった類からは大きくかけ離れている。香港の英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストは16日付の記事で、6月9日から本格的に始まったデモの取り締まりによって、これまでに1453人が逮捕され、そのうちの1173人が男性で280人が女性であったと報じた。同紙によると、警察との衝突だけではなく、行進や集会に参加していただけの市民も逮捕され、12歳の子どもから72歳の老人まで幅広い年齢の市民が警察によって拘束された。 この3か月で、香港行政府に対する国内外のイメージは悪化の一途をたどっている。イメージ改善を図るために香港行政府はPR会社8社に接触したものの、「このタイミングで仕事をするのは自社のイメージを損ないかねない」という理由で全社に断られていたことが判明。香港行政府のキャリー・ラム長官も17日の会見で、PR会社から断られていた事実を認めている。香港行政府のイメージ悪化の要因は、警察の行き過ぎた力の行使にある。PR会社でも対処できないほど、現在の香港警察のやり方にはポジティブな面が見えてこない。 「警察の変わりように、ただただ唖然としています。最初はあまりにも衝撃的だったので、言葉すら出ませんでしたが、警察が市民を執拗に殴り続け、催涙ガスや放水車でデモ隊を排除する光景を毎日目の当たりにするうちに怒りが込み上げてきみました。3か月前までは、ここまで酷くはありませんでした。警察による取り締まりがエスカレートしていくのを見て、警察による暴力を報じたニュースを友人に拡散するようになったのです」 九龍半島の西側にある油尖旺区に住む主婦は、再び大規模デモが行われた9月15日、ため息交じりに筆者にそう語った。大きく変化した警察の対応。それは香港警察が長い年月をかけて市民から得た評価を、自己否定するに等しいものであった。1960年代の終わり頃まで香港警察には汚職が蔓延していたが、1970年代に実施された組織再編によって、警察内部の空気は大きく変化した。市民との距離も近くなり、「アジアの警察官」と尊敬の念を込めて呼ばれるまでになった。しかし、香港が英国から中国に返還され、2011年にタカ派のアンディ・ツァン氏が警視総監に就任すると、警察はデモ参加者に対する締め付けを強化。2014年の「雨傘運動」の弾圧に成功したツァン氏は、翌年に中華人民共和国公安部の幹部ポストに「栄転」している。