三上大進「事実はひとつでも、解釈は無限」コンプレックスから自分を救ってくれる世界の広げ方
スキンケア研究家として活動し、初の著書『ひだりポケットの三日月』(講談社)を上梓した三上大進さんが、「違い」に悩み葛藤しながら、自分を好きになれたのは「美容」がきっかけでした。インタビュー後編では、自身の経験を乗り越え、たどり着いた思いについて伺いました。 三上大進さんの写真をもっと見る
■世界を広げるほど、自分への「解釈」は無限に広がる ――自分を少しでも慈しむためにはどのようなことから始めればいいでしょうか。 三上さん:小さなことでも自分を肯定してあげる癖をつけるといいかもしれません。仕事で少し失敗しちゃっても「今日は早起きできた」とか「頑張って帰ってこられた 」とか。失敗したってことはチャレンジしたということですし、落ち込んでいるということはその仕事に対してモチベーションとプライドがあるってことだから。自分の加点ポイントを見つけて褒めてあげるのがおすすめです。 今日の私の加点ポイントは、「ハンドクリームを持ち歩いて、きちんとケアできたこと」と「撮影に差し入れしたプリンがみんなに好評だったこと」(笑)。 ――つい減点方式で自分を評価してしまいがちなので、加点するのはいいですね。三上さんは自分のコンプレックスと向き合うためにどうしていますか? 上手にコンプレックスと付き合う方法を教えてください。 三上さん:「事実はひとつだけれど、解釈は無限」と思うとラクになると思います。例えば、唇の血色が悪いことをコンプレックスだと感じている人がいるとします。たしかに唇の色が薄いことは事実かもしれませんが、だからこそリップの色が映えやすいよね、とか、唇以外のパーツを生かすメイクが似合うよね、とか解釈は無数にあるわけです。 私の左手もまさにそうで、指が3本欠けているととることもできれば、2本ある、とプラスにとらえることもできます。両手の指を足して7本だから、ラッキー7です!というのも、アリ。解釈のカードを多く用意して、傷つきそうな瞬間でも自分を救ってきました。 そしてそのカードを増やすには、さまざまな人や「チガイ」と出合うことが近道です。私のお友達で少しだけ“ふくよか”な方が、自分のことを「ハピネス体型」と呼んでいて、こちらまで幸せな気持ちになれたことがあります。今では少し食べ過ぎてボーンとでた自分のお腹を、以前より大目に見てあげられる自分がいます。 本を読むのでも、散歩に出かけるのでも、“自分”以外の何かと触れ合うことで、解釈の選択肢は増えていきます。三日月の余白を「欠けている」と思うのも、「満ちるための余白」と捉えるのも、見る人の自由です。 ■自分の個性を決める権利は自分だけのもの ――著書に「個性」の話がでてきますが、「個性」ってどうやったら見つけられるものでしょうか。 三上さん:自分の個性を決める権利は自分だけのものだと思っています。私には障がいがあって、それを個性だと言っていただくことも多いのですが、実は自分自身はそうだと思っていません。それと同時に、個性を無理やり探す必要なんてないと思っています。日々暮らしていく中で「私、これが好きかも」「こうしていると心地いいかも」と感じる瞬間に個性の欠片は根付いているんじゃないかなと思います。自分の心の声を大事にしてみてください。私もそうしています! 自分らしさを探す中で、流行りのものに憧れて真似したっていいんです。例えば、まわりの人がみんな赤リップを塗っているから、自分も赤リップを試してみるとします。そこで赤リップが似合う自分に気づけたら、それも個性のひとつですし、まったくフィットしないかも、と気づくことも大事。 みんなと同じことをしていても、気づきの扉は開かれているんです。まずは自分がやりたいことを試してみて、似合う・似合わない、できる・できないに気づくことから、一緒にはじめてみませんか。自分らしさなんて、今この瞬間にわからなくたっていいんです。 ■人生のあらゆるターニングポイントに美容がある ――三上さんは、ご自身を救ってくれた「美容」を今はお仕事にされています。好きなものや憧れのものを仕事にすると、つらいこともありませんか。 三上さん:好きなことを仕事にしていると、仕事で失敗したときや、自分のやり方がうまくいかなかったときに、自分まで否定された気持ちになってしまいますよね。でも、自分の人格と仕事はまったく別のものなので、上手に分けて考えるしかないのかな、と今は思います。難しいですけどね。 自分がプロデュースした製品を使って「肌に合わなかった」というご意見をいただくことがあると、本当に申し訳ないという気持ちとふがいなさに心が持っていかれてしまうことはあります。 でもコンプレックスで悩んでいた私を変えてくれたのも、憧れの会社に入社して勤めることができたのも、今スキンケアブランドをプロデュースすることになったのもすべて「美容」がきっかけ。人生のあらゆるターニングポイントに美容があるので、今後さらにふがいなさを感じることがあっても、美容から離れることはありません。 ――人とのコミュニケーションや付き合い方で、三上さんが気をつけていることはありますか。 三上さん:言葉選びや話し方に関しては、気をつけていても失敗してしまうこともあるし、私もまだまだ勉強中です。こちらがそんなつもりで話していなくても、相手を傷つけてしまうこともありますよね。みんなそれぞれのバックグラウンドを持っているし、心地よいと感じる距離感もバラバラ、という前提は忘れないようにしたいです。 それに30代以降って、ライフステージが目まぐるしく変わるときだから、こちらは仕事を頑張っている時期でも、友人は育児が生活の中心になっていることもあります。だから、お互いがお互いの環境を理解し合うというのは大前提だと思います。相手の置かれている状況を尊重し合いつつ、ベストの距離感を楽しむのがいいのかな。 川の流れのように出会いもあれば別れもあって、今は一時的に離れてしまった人も、数年後にはまた仲良くなれるかもしれないから、その時々の出会いと別れに感謝しながら、新しい出会いを楽しみましょう! ――Instagramを通して、ファンの方々にメッセージを発信していらっしゃいます。でも、SNSを続けていると、ひどい言葉を投げかけられることもありますよね。SNSとのヘルシーな付き合い方はありますか? 三上さん:ここでデジタルデトックスしよう、みたいな素敵な回答ができたらいいんですが、そんなことは私自身ができないから言いません(笑)。スマホが見られなくなると逆にストレスがたまっちゃう! リフレッシュのために足つぼマッサージしてもらっているときですら、スマホをいじってますから(笑)。 アンチコメントには正直傷つきます。もちろんスルーもできるし、その意見を拾わないようにしていますが、心が無傷ということはありません。でも、自分に前向きなメッセージを送ってくれている方の労力とその時間の貴重さに心を配ることで、アンチコメントに惑わされなくなってきました。 「誰からも嫌われない人」のことが嫌いな人もいるので、結局全員に好かれている人というのはいないんです。自分を嫌っている人がいるのも仕方がないことだと割り切ることにしています。 ▶三上大進さんインタビュー前編「障がいとセクシュアリティに向き合う人生を照らしたもの」 三上大進 大学を卒業後、外資系化粧品会社でマーケティングに従事。2018年に日本放送協会入局。業界初となる障がいのあるキャスター・リポーターとして活躍。生まれつき左手に障がいがあり、自身のセクシャリティがLGBTQ+であることを公表している。現在がスキンケア研究家として活動。スキンケアブランド「dr365」をプロデュース。初の著書となる『ひだりポケットの三日月』(講談社)発売中。 撮影/玉村敬太(TABUN) ヘア&メイク/ナディア 取材・文/高田真莉絵 企画・構成/渋谷香菜子