原発被害の大熊町に子どもは戻るのか? 0~15歳を対象とする「ゆめの森」の挑戦 #知り続ける
家族をもつ若い人たちに来てほしい
原発事故後に大熊町が毎年行っている「住民意向調査」(速報版、2022年2月)によると、多数を占めているのは「戻らないと決めている」(57.7%)で、「すでに大熊町で生活している」(2.5%)、「戻りたいと考えている」(13.1%)は少数派だ。また、その少数派に対する質問でも、「今後の生活において必要だと感じていること」では「医療機関(診療科)の充実」「介護・福祉施設の充実」などが上位を占め、「保育・教育環境の充実」は11位という低さでもある。
回答者の約6割が60代以上という事情もあるが、吉田町長は、見るべきは「戻らない人」ではないと言う。 「見るべきは『まだ判断がつかない』という23.3%の人たちです。この迷っている人たちをいかに『戻る』側に引きつけるか。そこが大事なのです」 現在、大熊町に暮らす人は約920人、その多くは単身生活の労働者だ。住民票を伴って居住する町民は約360人だが、その大半は高齢者だという。このまま子どもが戻らず、あるいは子どもが生まれなかった場合、遠くない将来、大熊町には誰もいなくなる可能性がある。 だからこそ、あらたに大熊町で働く人たちに町民として定着してもらうことが重要だと吉田町長は言う。 「町としては、2027年までに人口を4000人まで増やしたい。そのために、工業団地を整備して働く場を増やし、住宅も増やしている。働く人だけでなく、家族をもってくれる人が増えてほしい。そうじゃないと先がないのです。若い人たちが根づいてくれるようにするのが、これからの私たちの仕事です」 ゆめの森でこの先受け入れを見込んでいるのは、0歳から15歳まで1学年10人程度、総数で約180人だという。来春、いまの町立学校からゆめの森に通おうとしている子は6人。2027年までにどこまで若い世代を呼び込み、人口4000人に近づけられるか。町の難しい挑戦が始まっている。
--- 森健(もり・けん) ジャーナリスト。1968年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。