原発被害の大熊町に子どもは戻るのか? 0~15歳を対象とする「ゆめの森」の挑戦 #知り続ける
「建物ばかりではありません」と木村政文教育長(63)が言葉を継ぐ。 「ただ学校を復旧すれば人が戻るかというと、そうではないでしょう。だとしたら、子どもたちが行きたくなるような学校をつくるほうがいい。そこで、ゆめの森では従来にない教育を取り入れていくことにしたのです」 新しい教育はすでに大熊町立学校でも導入しているという。
自習室のような静かな教室
同校で児童生徒は二つの教室に分かれて勉強していた。小6の2人がいる教室と、小3から中1までの6人がいる教室。授業時間に入ってみると、自習室のような静けさだった。 6人の教室では、みなバラバラに座っていた。教壇から教師が覚えてほしいことを語るという一般的な授業の風景はなかった。子どもたちはそれぞれの机にあるタブレットとノートに向き合い、それに沿って個別に学習している。教員は黒板を使わず、児童生徒に寄り添い、彼らがわからない部分について静かに声をかけるだけだ。中1の女子2人は、一人は平均値の問題を解いており、もう一人は図形における長さや面積の問題に取り組んでいる。
「AIを使った学習システムを使っています。東京の麹町中が使っていたものですが、これだと個人の進度に合わせて勉強を進めることができるんです」 佐藤由弘校長(59)はそう説明する。このシステムではタブレットに学習事項や問題が表示され、それを読みながらページを個々にめくっていく。その子がどの問題をどこで間違えたのか、その後に間違いを克服できたのかなど、児童生徒の進捗度や理解度を確認できるという。 「そこ、それでいいんだっけ」「さっきやったやり方と違うんじゃないかな」 聞こえてくる会話は、教師と児童生徒というより、家庭教師に近い。 そもそも現在の大熊町立学校では、児童生徒数よりも教員数のほうが多く、AIの教材など使わずにふつうのマンツーマン授業もできる。なぜこうした仕組みを取り入れるのか。大熊町教育委員会の指導主事、増子啓信さんは教育のあり方自体を捉え直していると説明した。