小児科の開業医が教える〈患者にとって良いかかりつけ医〉の見分け方
厚生労働省が発表した令和3年度の医療施設調査によると、全国の医療施設は 180,396 施設で、前年に比べ 1,672 施設増加しているとのこと。20床以上の病床を有する「病院」は33 施設減少している一方で、19床以下の病床を有する「一般診療所」は 1,680 施設の増加となりました。「一般診療所」が増える中、小児科医として開業した松永正訓先生が、開業医の実態を赤裸々に明かします。今回は、開業医の仕事内容についてご紹介します。大学病院や一般病院で働いているときには分からない、開業医は開業医になって初めて自分の仕事を学んでいくそうで――。 【書影】開業医のリアルと本音を包み隠さず明かした『開業医の正体』 * * * * * * * ◆開業の準備として2年勉強 たとえば、大学病院とか一般病院で勤務医をやっていた大人の内科の先生が開業するとする。そのときに、「内科」「小児科」を標榜することがけっこうある。 日本の法律では、医者は何科を標榜してもいいことになっている(麻酔科だけは別)。だが、この先生は、勤務医時代に子どもを診た経験はあるだろうか。答えは「まったくなし」である。だから開業直後は試行錯誤で子どもを診ていくことになる。 同じように勤務医の耳鼻科の先生が、子どもを診た経験はあるだろうか。答えは「あるけど、それほど多くない」である。確かに、地方の公立病院の医師であれば、子どもの中耳炎をけっこう診るだろう。 しかし、大学病院や都会の中核病院である公立病院の医師が診るということはあまりない。特に大学病院ではほぼない。開業している耳鼻科のクリニックには子どもが溢れているが、子どもの診療に関して耳鼻科医は、開業してから腕を上げたという部分はあるだろう。 内科の先生が内科で開業しても、得意なのは自分の専門領域で、他の分野は診療を走らせながら学ぶということになる。
◆新規開業のクリニックが良いとは限らない だから新規開業のクリニックがいいクリニックかというと、それはなかなかイエスとは言い難い。研修医を終えた医師が10年、15年かけて一人前になるように、開業医が開業医として一人前になるには時間がかかる。 ぼくは自分のことを一人前と言っていいか分からないが、今でも患者家族に質問されて答えられないこともある。こういうときは宿題にして文献を調べたり、仲間の開業医に知恵を貸してもらったりする。つまりぼくもまだ学びの途中だ。 開業スタートからいい医療をするためには、やはり準備が必要だろう。自分は何を苦手にしているのか、何を分かっていないかを自分に問いかけてよく勉強しておくことが重要になる。 ぼくの場合、2年間くらい準備をした。小児科の教科書(英語と日本語)をけっこう読んだ。中にはかなり実践的な本もあった。たとえば、『開業医の外来小児科学』(南山堂)。これは1000ページを超す大著で、開業医のために作られた本だ。だから心臓病の詳しい説明などは書かれていない。 開業医が先天性心疾患を治療することはあり得ないからだ。その代わり、外来でよく診る感染症のページが延々と続く。これが実に勉強になり、役立つ。「開業医」という学問はないと述べたが、小児科に関して言えば、この本が開業医の教科書かもしれない。