小児科の開業医が教える〈患者にとって良いかかりつけ医〉の見分け方
◆自分の仕事は「医療」だけではない 開業医の仕事は「医療」が大半だとしても、「家族を支える」という一面も重要である。開業当初、ぼくはそのことを十分に分かっていなかった。 開業したての数年は、ぼくは自分の存在を「単に近所の医者」「風邪のとき薬を出してくれる医者」くらいにしか認識していなかった。ま、自分の存在をその程度だと思っていたわけである。 だが、患者家族と何年も付き合ううちに、自分の仕事は「医療」だけではないと分かってきた。家族にはいろいろな形があって、いろいろな悩みがある。分かりやすい例では不登校の問題とか、体罰になりかねないしつけの問題とか、リストカットなどの自傷の問題とかである。 本来こういうケースは児童精神科に紹介したり、保健福祉センターに相談したりするのが正しいのだろう。 だが、家族の話をよく聞いてみると、ぼくから答えをもらいたいと言われることがある。そうか、こんな自分でも頼ってくる人がいるのか。 不登校の問題など、医学雑誌の特集号で勉強したりするのはもちろんであるが、そこに書かれた文字の力には説得力がないとぼくは感じる。結局、医者の人間力みたいなものが試されるような気がする。
◆家族を支えるという仕事 だからそうした家族には時間を使って、真正面から付き合う。待合室が激混みのときは、後日ゆっくり話そうと別の日に来てもらう。 そこで誠実に家族に向き合えば、ぼくが言ったことが100%正解ではなくても、家族にとって何かのヒントにはなったりしているように見える。かかりつけ医は、家族の悩みに答えなくてはならないということを、ぼくは何年もかかって学んでいった。 「家族を支える」というのは、小児クリニックでも大人のクリニックでも同じく大事なことだろう。 逆に言えば、「診療」だけをしている医者は、いいかかりつけとは言えない。患者が医者を選ぶときに見きわめるポイントはその辺にあるのではないだろうか。 ※本稿は、『開業医の正体――患者、看護師、お金のすべて』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです
松永正訓