小児科の開業医が教える〈患者にとって良いかかりつけ医〉の見分け方
◆人体実験は不可欠です それからこの20年くらい、いろいろな疾患に関してガイドラインが発表されている。ガイドラインとは標準治療を述べたものである。 患者によっては、「標準」ではなく、「特上」の治療をしてほしいと要求する人がいるが、これは言葉の誤解である。 標準治療とは「並」という意味ではない。科学的根拠(よく言うエビデンス)に基づいた治療のことである。したがって標準治療に則って、基準にそった治療をしていくことが最上の治療法と言える。ここは間違わないでほしい。 では、エビデンスとは何かというとちょっと説明が必要であろう。新型コロナの感染流行で、今や政治家までもがエビデンスという言葉を乱発している。だが、そのエビデンスという言葉の使い方は医学的には間違いである。政治家が言っているエビデンスとはデータのことである。「エビデンスがない」というのは、「データがない」の間違いである。 医学界におけるエビデンスにはランクの低いものから、ランクの高いものまで幅がある。最もランクが低いものは、「権威ある医学者の個人的な意見」である。 一方、最もランクが高いのは、新型コロナに感染した患者をA群とB群にランダムに分けて(ここがポイント)、ワクチンを注射するか、生理食塩水を注射するかして、その結果、入院になった数や死亡者の数を比べる研究のことだ。さらに言えば、そういう研究を多数集めたものが最上のエビデンスになる。 それでは人体実験ではないかと思う人もいるだろう。その通りである。エビデンスを得るためには人体実験が必要なのである。1000人の健康な大人に新型コロナワクチンを接種して、そのうち○%が発熱した……というのはデータであって、エビデンスとは言わない。
◆患者からは分からないこと こうした臨床研究(治験という)は、研究に参加してくれる患者がいて初めて成り立つ。ボランティアとも言える。ある意味で、患者に少なからず犠牲を強いる。そうまでして手に入れたエビデンスなのだから、医師はその結果を重く尊重すべきである。 小児科領域でも耳鼻科領域(特に中耳炎)でも、疾患ごとにガイドラインが世に出ている。こうしたガイドラインを、開業医はしっかりと押さえておかないといけない。 ところが、あんがい我流の治療を行っている医者がいる。どういうつもりなのか、ぼくにはよく理解できない。内科の先生や耳鼻科の先生が、子どもの診療を行うならば、そうしたガイドラインをしっかり守ってほしい。ぼくなんかガイドラインから外れた医療は怖くてできない。 患者の側からすると、医師がガイドラインを守っているかまず分からないだろう。そこはなかなか悩ましい問題だ。 ぼくは診察室の本棚にガイドラインや教科書を並べていて、患者家族から同意を得るときに、そうした本を広げて当該部分を読み上げて説明することがある。これは患者にとってどう映るのだろうか。 さすがに患者家族もネット情報よりも、医学書に書いてあることの方が正しいと思っているだろう。だから本を見せられて納得するかもしれない。しかし一方で、アンチョコを広げて診療をしている頼りない医師に見えるかもしれない。これは患者家族に聞いてみなければ分からない。