合奏練習は1日限り 異例の『第九』音楽会を取材 子育てに介護…様々な事情抱え参加「一生の宝物に」
日テレNEWS NNN
神奈川・横浜で、ベートーベンの『喜びの歌(第九)』を演奏する音楽会が3月16日に開催されました。実は、全員が集まって練習したのはこの日“1日限り”。さらに、楽譜が読めない人も参加しているんです。異例の音楽会がなぜ開かれたのか? 取材しました。
■「1日にするからこそ集まれる人たちと、出せる音がある」
初開催となった『Earth ∞ Pieces(アースピースィーズ) vol.1 ワールドプレミア』。企画発案・監修したのが、栗栖良依(くりす・よしえ)さんです。栗栖さんは2010年に骨肉腫を患い、障害者パフォーマンスの世界へ。東京2020パラリンピック開閉会式で、企画・演出振付など総合的に監修を担当するなど、活躍しています。 栗栖さんになぜ、“1日完結型の音楽会”を開催しようと思ったのか? お聞きしました。 「通常『第九』というと、何か月もみんなで集まって練習して演奏するものだと思うんですけれど、仕事だったり介護・子育てなど、何回もリハーサルすることが難しいという方がたくさんいらっしゃって。1日にするからこそ集まれる人たちと、出せる音がある。こういった音楽会というと、たくさん練習して精度の高い、芸術性の高いものを仕上げて人に聞いていただくことが通常のイメージかと思うんですけれど、“誰もが参加できる”。でも、作品としてのクオリティーも追求するという、そこのバランス感を今回すごく意識しながら作っています」
■子育て、介護中のプレーヤーも参加「このスタイルだから参加できた」
特徴の1つが、参加するプレーヤーの“幅の広さ”。プロから、個人的な事情で音楽演奏から離れた人、障害がある人まで、28人が参加(体調不良のため1人欠席)しました。 ビオラ担当の立木茂さん(63)は、プロの音楽家。オーケストラ等で演奏活動を行い、中南米の大学で教べんをとるなど40年にわたり音楽に携わってきました。今回は「演奏家は受け取った楽譜を再現するのが仕事。今回のイベントは“作り上げる”ところから参加できると伺ったので、ぜひやってみたい」と、参加したといいます。 声楽担当の斎藤百合恵さん(34)は、5歳と6か月(取材当時)の女の子を育てる母親。大学のときに合唱団に入っていましたが、「どうせやるなら時間を使える時期にやりたいという思いが強かった。今は音楽の時期じゃないかな、というのでしばらく離れていた」といいます。「1回だけ、その場の化学反応で音楽を作ろうというのが面白そうだと思ったし、いっぱい練習を重ねて本番のステージを目指そうという活動だとどうしても“今じゃないかな”と思っちゃう。このスタイルだから参加できたのかな」と話しました。 アルトサックス担当の三宅章太さん(38)は、2020年頃から母親が認知症を患っており、現在は仕事をしながら家族のサポートを行っているといいます。中学・高校でやっていたアルトサックスを演奏することで「自分の状態・気持ちのバランスがよくなっている」と感じ、「母が急に体調が悪くなれば、楽団とかで演奏していると難しい。色んな方が色んな思いを持って参加されている。それぞれが奏でる音は十人十色だと思うし、それが合わさったときにどういう音がするかな、発見と喜びに満ちてるんじゃないか」と、演奏会への期待を膨らませていました。