合奏練習は1日限り 異例の『第九』音楽会を取材 子育てに介護…様々な事情抱え参加「一生の宝物に」
■楽譜が読めない参加者 自身で工夫も
経験の差がある参加プレーヤーたち。栗栖さんは今回、音楽監督を務める音楽家の蓮沼執太さんとともに、楽譜が読めない参加者も演奏できるように、個人練習方法を考えていました。 ジャンベを担当する待寺優さん(34)には、たたくタイミングを“声”で教える音源が渡され、それを基に個人練習に励んでいました。
また、自身で工夫した参加者も。大学生の岩川佳士乃さん(25)は、生まれつき右肘が曲がらず、小指・人差し指が動かしにくい障害がありますが、主に親指で演奏できるカリンバで参加しました。「小・中学校の音楽の授業ぐらい」しか経験はなく、楽譜は読めませんが、「音ゲー(音楽リズムゲーム)」からイメージしたという“自分流の楽譜”を自作。「自分には音楽が難しいと思ってしまう場面もあったけれど、自分でも工夫することできちんと演奏に参加できることがわかった」と、この演奏会に参加して得た経験について語りました。
■個性豊かな面々による、個性にあふれた演奏会
1日限りの合奏練習の中で、蓮沼さんがこんな言葉をプレーヤーにかけました。 「何が合っているとか、何かが間違っているとか、うまいとか下手とかそういう感覚は一切ない。色んな人の音を受け入れてあげながら、合奏できたらいいんじゃないかと思います」
3時間ほどで合奏練習は終了し、いよいよ本番へ。プロから未経験者までがそろった1日限りの楽団は、ダウン症の小川香織さん(29)によるピアニカや、待寺さんが個人練習を重ねたジャンベ。これまで音楽の演奏に触れてこなかった岩川さんが、カリンバの温かい音色を響かせる見せ場もありました。
家庭の事情などで演奏会への参加が難しかったアルトサックスの三宅さんは、自身が演奏していない時間にも音楽にノリながら笑顔を見せ、子育て中の斎藤さんも『第九』を熱唱。個性あふれる楽団が織りなす、個性豊かな『第九』の演奏に、集まった人たちからは大きな拍手が送られました。
本番終了後、三宅さんに話を聞くと「本当にめっちゃええ音していて。すっごいいい気持ちになりました。皆さんと表現が一緒にできたことを、一生の宝物にできます」と、満面の笑み。斎藤さんは、「自分が万全の状態で練習できるなら、理想を目指そうというのが苦にならないし楽しいんですけど、(今は子育てで)それができない。そういう場(音楽会)にいくと“できなくてごめんなさい”みたいな感じになる。そういうのがなく、安心できる。本当に楽しかったです」と、感想を語りました。 2030年まで活動を続けていきたいという栗栖さん。「今まで音楽を演奏する機会がなかった方でも参加できるような形を取りながら、どんどん仲間を増やしてアンサンブルを発展させていきたい」と、今後の展望について語りました。