AIにとってGPUはなぜ欠かせない存在になったのか 長谷佳明
GPUは、ディープラーニング時代幕開けの陰の立役者である。それまでも、スタンフォード大学のアンドリュー・ヌグ教授らによって、GPUはAIのモデルの学習に試験的に活用されていたが、画期的な成果にまでは結びついていなかった。今思えば、大規模なモデルが“未知の機能や性能”を引き出した点は、今日の言語モデルの巨大化の先に切り開かれた生成AIにも共通する。常識に縛られず、新たな可能性を追い求める姿勢が、いつも技術のフロンティアを切り開いてきたことは、今も昔も変わらない。 ◇GPUがCPUより優れている点 ではなぜ、AIを動かすのは高性能なCPU(Central Processing Unit、中央演算処理装置)ではなくGPUが必要なのか。 一般的なコンピューターの“頭脳”はCPUだ。GPUはCPUとは異なり、グラフィックスの処理を高速化する専用チップで、エヌビディアやATIテクノロジーズ(現アドバンスト・マイクロ・デバイセズ、AMD)などがゲームや高性能3Dワークステーション向けの製品として生産していた。 GPUは例えば、高精細なCGを生成するためのポリゴン(多角形)の計算、つまり、点で示される多角形の座標の演算を大量に、かつ高速に処理するのに向いている。CGの視点の変更に伴う点と点の移動を行列計算に置き換えて演算したり、大量のデータを出し入れしたりするために、GPUはコンピューターの主記憶メモリーとは別にGPU内で高速に処理するための専用メモリーをグラフィックボードに持つ。 またGPU内は複数のコアが並べられており、データが入ると、それぞれのコアが計算を進める。つまりGPU内は一つの「並列計算機」になっている。このような並列的な計算はGPUの方がCPUより得意だ。ただ、GPUはあくまでグラフィックス専用の位置づけで、命令も特殊で限られ、いくら並列計算に向くといっても、GPUの演算を数値計算に用いるのは容易ではなかった。