「聞かれたら“大丈夫”って言うしかない」なだぎ武が学生時代のいじめを誰にも相談できなかった理由 #今つらいあなたへ
夏休みも終わりに近づき新学期を迎える頃。学校に行くことをためらい、表情を曇らせる子供も少なくない。元気がない子供に対して「親が距離を詰めすぎず、待つ努力も必要」と語るのは、芸人のなだぎ武さん。その言葉の背景には、なだぎさんが学生時代に受けたいじめの経験があった。現在1児の父でもあるなだぎさんに、いじめに遭ったときにつらかったことや救われたこと、また周囲はどのようにアプローチすべきなのか、話を聞いた。(Yahoo!ニュース Voice)
「とにかく事を荒だてたくなかった」先生にも親にも友人にも相談できなかったいじめ
――なだぎさんは中学生の頃、いじめの被害を受けたとうかがいました。 なだぎ武: 中学校に入学するくらいのタイミングで太りだして、その容姿をいじられることから始まりました。最初はいわゆる子供のじゃれ合いという感じだったのですが、「いじめだな、これは」と自覚し始めたのは、身体的な暴力に発展したときでした。 掃除しているときにホウキでつつかれることから始まって、僕のリアクションを見て、「こいつ、こういうことしたらこんなリアクションをするんだな」と余計に面白がって。一度面白いと思うと、 “その先”を見たくなるんでしょうね。お尻をパーンと叩かれるとか、だんだんとエスカレートしていきました。 ――いじめを受けていることを先生に相談したことはなかったのでしょうか。 なだぎ武: 相談しなかったですね。先生に相談したとしても、相談したことがバレたときに「お前、先生に言うたな」と、相手の怒りの火に油を注ぐんじゃないかと思ってしまって、言うことができなかったんです。 僕1人だけ明らかに孤立してるっていう空気感が出ていたし、顔に傷もあったので、さすがに先生も「こいつ、どうしたんやろな」と気づいてくれているだろうと自分では思ってたんですけど、先生からの声かけもとくにありませんでした。 でも、「大丈夫か?」と聞かれたら聞かれたで、「大丈夫」って言うしかなかったので、声をかけられるのも嫌やなと思っていました。先生に対しても「寄ってくるなよ」みたいなオーラが自分自身から出ていたかもしれないですね。 ――親御さんに相談することもなかったのでしょうか。 なだぎ武: 親にも話さなかったですね。事を荒立てたくないっていう気持ちが一番にあったんですよ。「誰かに言ったら、暴力の度合いがさらに大きくなるんじゃないか」という恐怖が脳みそにこびりついている感じというか。いつか飽きるだろうなと思ってましたし、相談して大事になったりエスカレートしたりするくらいだったら言わずに被害を最小限に抑えておいたほうがいいんじゃないかみたいな発想でした。 父親に「学校で何かあったのか?」と聞かれたことはあったんですけど、「いや、とくにないよ」と言ってました。顔に傷があるときなどは、顔を合わせないタイミングでリビングに行ったり、お風呂に入ったりと家の中でも孤立している感じでしたね。 ましてや学校を休むと、親が心配するじゃないですか。心配した親が学校に相談すると、僕が元気のない原因は何やっていうことになるでしょ? それが嫌だったんですよ。最終的には限界を迎えて、高校には行かずに引きこもってしまったのですが、いじめられているときは親に心配をかけたくないという一心で、学校だけは何があっても行き続けようと。そのときは「自分だけが我慢すればいいだろう」っていう感じでしたね。 ――それでも、自分のつらさを誰かに気づいてほしいと思うことはありましたか。 なだぎ武: 僕のことを気にかけてくれる同級生が1人だけいたんですよ。ただ、僕がいじめられていることを知ってはいたけれど、「先生に言ったほうがええぞ」とか、「お前大丈夫か」とか、僕自身がプレッシャーになるような言葉をかけてくるのではなくて、「面白いゲームを買ったから、俺の家にやりに来いよ」とか、「面白い漫画があるからお前に貸したるわ」とか、そういう言葉をかけてくれるんですよ。 その友達の家に行っても、ただ遊んで帰ってくるだけだったんですけど、それがすごく心地よかったんですよね。いじめられていることを忘れさせてくれるような、安心できる時間でした。 ――その同級生にいじめられていることを相談したり、助けを求めたりすることはなかったのですか。 なだぎ武: いじめについて話すことはなかったですね。僕自身はとにかく事が大きくなることを恐れていたので。 声をかけてくれたその子も「こいつの打ちひしがれてる気持ちをちょっとでも癒してあげたいな」と思いながらも、僕のそういった気持ちを汲み取ってくれてたのかもしれないですね。その子の僕に対するアプローチはうまかったなって、今考えても思いますね。