日本人の「自画像」の書き換えが必要とされる理由 「経済大国」から「アニミズム文化・定常文明」へ
3番目の『タテ社会の人間関係』は、社会人類学者で東大初の女性教授ともなった中根千枝が、インドや中国等との比較を踏まえて日本の特質を論じたもので、「場」の重視、「単一社会」としての日本社会の性格、そこでの「集団の孤立性」、ひいてはそれらから帰結する(先ほどの和辻『風土』での議論とも通じる)「ウチ」「ヨソ」の意識の強さ等を述べる内容になっている。 100万部を超えるベストセラーとなった本だが、日本社会における関係性のあり方、特に上記の「ウチ」「ヨソ」の断絶の大きさや、同質的メンバーによる集団の「一体感」の重視等を批判的に論じており、そのまま現在の日本社会にもあてはまるような中身である。私自身も共感するところが大きく、これも大学のゼミで何度か取り上げてきた。
最後の『「甘え」の構造』は、精神科医で東大教授も務めた土居健郎の著作で、書名のとおり「甘え」を日本人の心理あるいは日本社会の構造を理解するキーワードとしてとらえ、そこから日本人の精神構造の特性を論じていくものである。 英訳タイトルが“The Anatomy of Dependence(依存の解剖)”となっていることにも示されているように、(集団内部あるいは「身内」における)「依存」的な関係性のあり方に日本社会の特質を見る内容となっている。
■高度成長期前後の日本人論の特徴 以上、日本人論の代表的存在と言える4つの著作について概観したが、ここで1点気づかされることがある。 それは、和辻哲郎の『風土』を若干の例外として、これらはいずれも日本人あるいは日本社会における人と人の「関係性」、あるいは「コミュニティ」ないし集団のあり方に主たる関心を向けているという点だ。 この点に関して、図を見ていただきたい。これは人間と社会をめぐるテーマを理解する際の基本的な枠組みを示すもので、土台に「自然」あるいは「環境」に関する次元があり、その上に「コミュニティ」(あるいは共同体)の次元があり、さらにもっとも上層に「個人」という次元がある構図になっている。