日本人の「自画像」の書き換えが必要とされる理由 「経済大国」から「アニミズム文化・定常文明」へ
話題を日本人論に戻すと、日本人論がもっとも活発だった高度成長期ないしその前後の時代における、そうした論の内容面での特徴はどのようなものだったのか。 ここで日本人論として挙げられる著作の中で特に代表的なものを挙げるとすれば、それは以下のようなものとなるだろう。 ・和辻哲郎『風土――人間学的考察』(1935年) ・ルース・ベネディクト『菊と刀』(1946年) ・中根千枝『タテ社会の人間関係』(1967年)
・土居健郎『「甘え」の構造』(1971年) これらについてはすでにその内容を知っているという読者も多いと思うが、確認の意味でそれらの概要をごく駆け足でレビューしておこう。 ■100万部を超えるベストセラー本も誕生 最初の和辻哲郎『風土』は、戦前に書かれたものなのでやや時代がずれるが、世界の風土を大きく「モンスーン(=主にアジア)」、「砂漠(=主に中東)」、「牧場(=主にヨーロッパ)」と分けたうえで、それぞれにおける人々の行動様式や世界観、宗教等のありようを描く内容だった。そして「モンスーン」に位置する日本について、その特質を「台風的な忍従性」とか「しめやかな激情」、家の“「うち」と「そと」”の区別の強さといった視点にそくして論じたのである。
多少余談めくが、私はこの本を大学時代に初めて手にとった時はどこがおもしろいのか理解できなかったが、40代になりたまたま本屋で目にしたのをきっかけに再読することになり、この時はその内容に大いに感銘を受けたという思い出がある(大学のゼミでもしばしばテキストとして使った)。後の議論にもつながるが、それは“エコロジー的(比較)文明論”とも呼べるような先駆性をもった内容であり、日本人論という枠を超えた広がりをもっている。
次の『菊と刀』は、文化人類学者として幅広い業績を残したアメリカ人女性のルース・ベネディクトが、当時の“敵国”たる日本社会の特質あるいは日本人の行動様式を理解する目的でまとめた著作であり、特によく知られているのは「日本=恥の文化」、「西洋=罪の文化」という対比だろう。つまり行動や規範が、(キリスト教のような)超越的な神との関わりにおいてではなく、もっぱら他者との関係性において規定される日本社会のありようを「恥の文化」と特徴づけたのである。