パナメーラとはまったくの別物 ベントレー・フライング・スパーに加わった“スピード”にモータージャーナリストの渡辺慎太郎が試乗
ベントレーは、スポーツカーなのか、スポーティ・カーなのか、それともラグジュアリー・カーか?
2030年の完全電動化へのプランを変更し、代わりに2035年までに毎年電気自動車とプラグイン・ハイブリッドを投入すると発表したベントレー。その先鋒となるのがポルシェと縁の深いV8ハイブリッドを搭載するフライングスパーの最上位バージョンだ。モータージャーナリストの渡辺慎太郎がリポートする。 【写真39枚】完全電動化プランを変更したベントレーが放つ自社史上、最強の4ドア・セダン、フライング・スパー・スピードの詳細画像を見る ◆ウルトラ・パフォーマンス・ハイブリッド クーペのコンチネンタルGTでもSUVのベンテイガでも、そして今回試乗したセダンのフライングスパー・スピードでも、モデルを問わずベントレーに乗るといつも想うことがある。それは、ベントレーというクルマはスポーツカーなのかスポーティ・カーなのか、あるいはラグジュアリー・カーなのか、という疑問だ。 フライングスパーはプラットフォームを含む多くの部分をスポーツカー・メーカーであるポルシェのパナメーラと共有している。特にこのモデルに関しては、パナメーラの開発初期段階からポルシェとコミュニケーションを密にとっていて、ベントレー側の要望も開発に反映するよう協議を重ねたそうだ。こんな話を聞くと、モータースポーツでも数々の輝かしい戦績を残してきたベントレーはやっぱりスポーツカー作りを目指しているのかと想像してしまう。 それを裏付けるような存在が、フライングスパー・スピードに搭載されるパワートレインだ。4リッターのV8ツインターボはモーターと組み合わされたプラグイン・ハイブリッド機構を持ち、ベントレーはこれを“ウルトラ・パフォーマンス・ハイブリッド”と命名した。システムとしての最高出力と最大トルクは782ps/1000Nmで、ベントレー史上最強の4ドア・セダンとのこと。実はこのパワートレイン、出力とトルクの数値も含めてパナメーラ・ターボS E-ハイブリッドと基本的には同じである。ポルシェと共同開発みたいな感じで、その上“ベントレー史上最強”なんて言われると、ますますそっちのほうへ向かっている信憑性が増してしまう。 ◆ベントレー独自のもの ところが実際に運転してみると、パナメーラとはまったくの別物になっている。パワートレインのハードウエアは確かに共有しているものの、それらを司る制御のソフトウエアはベントレー独自のもので、エンジンの回転フィールや出力よりも、トルクの出方にこだわった味つけになっている。そっとアクセレレーターを踏み込む発進時から、つまりアイドリングの回転数からわずかに上のあたりでもたっぷりのトルクが体感できて、2.5トンを超えているはずの車重をほとんど意識しないまま見る見るうちに速度が上がっていく。そこにはスポーツカーを想起させる所作などまったく存在しない。“粛々とした重厚感”だけが身体にまとわりつく。 伸び側と縮み側でそれぞれバルブを有するツインバルブ式ダンパーと空気ばねを組み合わせたエア・サスペンションもまたパナメーラと共有している。こちらもまた、だからといってステアリング・ゲインが高く積極的に曲がっていくようなスポーツカーの操縦性にはなっていない。あくまでもドライバーの入力に対して正確かつ迅速に反応するタイプである。加えて、後輪操舵やeデフやトルクベクタリングを駆使して、3.2mに近いホイールベースを相殺する優れた回頭性も持ち合わせていた。 フライングスパー・スピードはプラグイン・ハイブリッドなので、駆動用バッテリーが充電されていればEV走行が可能となる。最大航続距離は76kmで、最高速は140km/h。クルマを渡された時はほぼ満充電だったので、しばらくはずっとモーターのみの走行となった。爆発を繰り返すエンジンが眠っているので、パワートレイン由来のノイズや振動(=NV)は当然のことながらほとんどなく、滑らかな乗り心地と共に高い静粛性に室内は包まれる。ラグジュアリー・カーとEVの相性のよさを再確認したら、いつの間にかエンジンが始動していた。エンジン稼働時でもNV対策は万全であった。 こうした極上の快適性を、高品質の本革やウッド・パネルに囲まれた空間で味わっていると、このクルマは紛れもないラグジュアリー・カーであると感心する。で、冒頭の疑問にまた辿り着くわけだ。いつまでも自分で抱え込まず、ベントレーのエンジニアに聞いてみることにした。 「スポーツカー、スポーティ・カー、ラグジュアリー・カー、そのすべてを備えているのがベントレーです」 おっしゃる通りです。 文=渡辺慎太郎 写真=ベントレー ■ベントレー・フライングスパー・スピード 駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動+モーター 全長×全幅×全高 5316×1988×1474mm ホイールベース 3194mm 車両重量 2646kg エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCターボ+モーター 排気量 3996cc ボア×ストローク 86×86mm システム最高出力 782ps システム最大トルク 1000Nm トランスミッション 8段デュアルクラッチ式自動MT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+エア (後) マルチリンク+エア ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク タイヤ(前/後) 275/35ZR22/315/30ZR22 車両本体価格 未定 (ENGINE2025年2・3月号)
ENGINE編集部