とんでも発言も。伊調パワハラ問題に対する協会の認識の甘さと今後への不安
女子レスリングで五輪4連覇、国民栄誉賞も受賞した伊調馨に対するパワーハラスメント告発は、1ヶ月以上、世間の注目を集めてきた。ようやく4月6日になって日本レスリング協会が設置した第三者委員会による調査報告書が臨時理事会で承認され、栄和人氏が強化本部長を辞任したことが公表された。少しだけ前へ進む気配だが、同時に協会の認識の甘さへの不安も残る。8日未明に公表された臨時理事会出席者らによる理事会における発言内容には以下のようなものがあった。 「パワーハラスメントの定義も責任も分かりました。ただ、すべて謝罪ではなく、正しいことは正しい、と言うことも必要。栄本部長が残した功績は非常に大きいものがある。また、5連覇を目指す選手だけがアスリートではない。至学館の選手もアスリート。選手が権利を主張するのは自由だが、義務と責任もある。選手とコミュニケーションをとって頑張りたい」 発言者は匿名になっているが、理事会出席者、すなわち協会幹部による発言だ。パワーハラスメントの加害者が陥りがちな思考のまま発せられたような言葉になっている。選手が己の権利を守るための仕組みがない状態で、義務もあると権力のある側がまず発言してしまう不用意さは、率直さの裏返しなのだろう。だが、その感情を隠さない物の言い方が、今後、改善してゆけるのだろうかという不安を抱かせるのだ。 今回の第三者委員会による調査報告書では主に4つの事項についてパワーハラスメントであると認められた。なかでも、2010年アジア大会の代表選考がパワーハラスメントであると認定された意義は大きい。 2010年世界選手権と同じように、2009年末の天皇杯全日本選手権と2010年明治杯全日本選抜の2大会において63kg級で優勝した伊調馨は、アジア大会代表にも選ばれると思われていた。ところが、実際には「若手育成」という理由で天皇杯2位、明治杯3位の選手が選ばれた。しかし、このときのアジア大会に出場した女子レスリングの出場選手をみると(※当時は4階級実施)、いずれも伊調より年長者ばかりで、選出理由としては不自然なものだった。そして、この代表選考方法は、当事者である選手に対しての説明が不十分だったことも確認されている。 今回の調査は伊調に関わる事象だけに限って行われたため、他の代表選考については触れられていない。しかし、この数年、女子レスリングの代表選考基準については、玉虫色の度合いが増していた。 選考対象とされる大会の試合結果が出た後に、一部の階級については合宿中に様子を見ながら決めるという告知がされることが繰り返されていた。マスコミなどに向けてアナウンスするのが遅れただけではなく、対象となる選手にも知らされていなかったことがあとでわかり、何度も驚かされた。