とんでも発言も。伊調パワハラ問題に対する協会の認識の甘さと今後への不安
もともと、五輪競技になる以前の女子レスリングでは不明瞭な代表選考が常態化しており、「試合に勝ったから世界選手権に行けるのかと喜んでいたら、また試合をするように言われて驚いた」と当時を思い出す元選手は少なくない。2000年に、シドニー五輪の競泳代表選考基準をめぐってスポーツ仲裁裁判所で争われ、「あらかじめ選考基準は選手に明示されるべき」という結論が出た。当時、大きくニュースとして取り上げられていたこともあり、女子レスリングでも同じような考え方をすべきだと関係者に話したことがある。だが当時は「自分たちが納得しているから問題ない」という返答しかなく、前もって基準を明らかにしない代表選考の何が不適切なのか、本気で理解できない様子だった。 その後、2004年アテネ五輪で女子が五輪の正式種目に加わってからしばらくは、男子の代表選考と同じように、年に2回開かれる全国大会である天皇杯と明治杯に優勝する、もし勝者が異なる場合は2大会優勝者によるプレーオフの勝者が日本代表となる、という基準があらかじめ発表され、その通りに代表が選ばれていた。ところが、前出の2010年アジア大会で伊調が代表に選ばれなかったころから、再び不明瞭な代表選出が目につくようになった。 近年、五輪競技の日本代表選考については、基準となる大会が設定され、その基準があらかじめ知らされるのが通例だ。女子レスリングのやり方は、明らかに時代に逆行しており、十年以上前に聞かされた「自分たちが納得しているから」問題ないと語っていた頃から考え方が進んでいないことがうかがえる。 「自分たちが納得しているから」という考え方には、大きな問題がいくつも潜んでいる。まず、「自分たち」とはいったい、誰なのか。 そこに当事者である選手が含まれているのか疑わしい。選手とは完全に理解しあっているから問題がないと言う指導者が少なくないが、パワーハラスメントのガイドブックなどをみると、部下とは完全にコミュニケーションがとれていると断言する上司ほど注意が必要だとされている。二者の関係性が、反論を許さない威圧的で封建的な師匠と、萎縮して物を言えなくなった弟子になっているからだ。そのため当事者間では問題が発生したときに解決するのが難しく、企業などではハラスメント被害を止めるため、第三者が介入する仕組みがある。ところが、レスリング協会には選手が問題を第三者に訴える方法がない。