PK戦制し4強進出!GK谷晃生の“神セーブ”裏に恩師と”レジェンド”川口能活の教えあり…「ヒーローになってこい!」
感情をコントロールする術はPK戦へ突入する直前、緊張と興奮、不安と重圧とが交錯する場面でも谷を支えた。ニュージーランドのキッカーたちの情報が記された紙を手にした、川口能活ゴールキーパーコーチと作戦を確認しあっているときだった。 「でも、一度に覚えきれなかったというか。そのときに能活さんから『最後はお前の判断で自信を持ってプレーすれば絶対に止められる』と言われて。さらに『ヒーローになって来い』と送り出してもらえたので、そうなろうと思ってプレーしました」 PK戦が迫ってくる状況で、情報をすべてインプットできない不安を表情に出さなかった谷の姿に、川口コーチはあれこれ言うのではなく背中を押そうと決めた。谷のなかでも川口コーチの檄が、かつて森下氏からもらった金言と合致していた。 大阪・堺市で生まれ育った谷は幼稚園の年長で、兄の背中を追うようにボールを追いかけ始めた。キーパーとの出会いは小学校3年。兄が所属していたクラブで試合をするのに人数が足りず、たまたま観戦に来ていた谷が借り出された。実業団の元バレーボール選手だった母親の真由美さんの遺伝で、当時の谷はすでに身長が高かった。 「それまではいろいろなポジションでプレーしていましたけど、キーパーをしてみたら意外と面白くて。小学校4年生からは、キーパーのスクールに通ったりしていました」 狭き門であるセレクションに合格し、ガンバ大阪ジュニアユースの一員になるも、堺市内の自宅と万博公園内のガンバの練習場とは電車で片道2時間ほどを要する。夕方から行われる練習を終えて帰宅するころには、常に日付が変わる直前だった。 プロを夢見て必死に頑張っていた谷を、サポートしたのが真由美さんだった。自らも仕事を抱えながら愛車のハンドルを握り、ユースに昇格して寮に入るまで谷を送迎した。 「車だと1時間かかるかどうかなので。眠るのも大切だと思っていたなかで、睡眠時間を確保できたことでここまで身長も高くなったと思うと、本当に感謝しかありません」 笑顔でジュニアユース時代を振り返る谷は、いまでは身長190cm体重84kgと恵まれた体躯を誇る。しかし、将来を嘱望されながら飛び級で昇格したトップチームでは、ワールドカップ代表メンバーにも名を連ねた東口順昭の後塵を拝し続けた。 2018、2019シーズンで公式戦のピッチに立ったのは一度だけ。U-23チームが参戦していたJ3でプレーはできる。日々の練習では東口の一挙手一投足も注視できる。それでも2019シーズン後に届いた、湘南からの期限付き移籍のオファーを承諾した。 「ガンバでの2年間は本当に充実していたし、いまの自分があるために必要な時間だったと思っています。でも、サッカー選手としてトップレベルの試合に出ることが一番重要だと思ったので、外の空気を吸う、じゃないですけど、誰も僕のことを知らず、僕自身も誰も知らないチームで、サッカー選手としての自分を試したかったんです」