「兵庫県警はあまりに腐っている」泣いて訴えた機動隊員は、24歳でなぜ死んだのか パワハラを認めさせるまで8年半、両親の長すぎる闘い
しかし、ここまで見る限り木戸さんに対するTの行為は嫌がらせにしか見えない。聴取を担当した監察官もそう感じたのだろう。「単なる嫌がらせではないか」と尋ねている。 しかし、Tはこの問いかけに対しては無言を貫いた。 ▽パワハラは認められた、だが… 2022年6月の神戸地裁判決は、兵庫県に対し、一仁さん夫妻へ100万円を支払うよう命じた。Tの行為を「指導の域を超え、社会通念上相当性を欠いたパワハラ行為に当たる」と認定している。 一方で、パワハラとうつ病の発症や自殺との因果関係は認めなかった。理由は、大地さんが「後輩への指導や隊内での立場で悩んでいた事情も見受けられる」とされた。 裁判長が主文を読み上げ、金額に触れた直後、一仁さんは声にならない声を上げ、顔を覆った。人目もはばからず涙を流し法廷を出て、こう語った。 「司法には、ないのかよって」 一仁さんは何が「ない」と感じたのだろうか。正義、心、理解。おそらく、その全てだろう。判決から4日後、一仁さん側は大阪高裁へ控訴した。
大阪高裁の証人尋問ではTの上司が出廷。「パワハラ行為を見た記憶はない」などとくり返すだけだった。 ▽パワハラを認めた警察、書面だけの「謝罪」 昨年10月、大阪高裁の裁判長は双方に和解を提示した。当初、一仁さんは受け入れるつもりはなかったが、既に精神的に限界だった。うつ症状で通院するようになっていたのだ。 最終的に、和解を受け入れようと決めた。和解内容は①県警がTによる大地さんへのパワハラを認めて謝罪する②両親に142万円を支払う―こと。 3月22日、一仁さんと妻久美子さんは和解のため大阪高裁を訪れた。裁判所の長い廊下の先に、県警側の弁護団がベンチに座っている。一仁さんは静かに歩み寄り、語りかけた。 「なんで8年半もかかったんですかね」 誰も何も答えなかった。 一仁さんが願っていたのは直接の謝罪。しかし、出てきたのは「パワハラにより、精神的負担を加えたことを真摯に反省し、謝罪する」という書面だった。パワハラと自殺との因果関係は、最後まで認められていない。
和解後に記者会見した一仁さんはこう語った。 「大地の死が無駄にならないためにも、県警に反省する気持ちがあるなら、変わってほしい。そうでないと、第一線の警察官がとてもかわいそう」 ほかにも言いたいことはたくさんあったと想像する。ただ、大地さんの遺志を尊重したのかもしれない。遺書にはこんな一文があったからだ。 「どうか、機動隊を悪く思わないで下さい。隊員一人一人、とても大切にして下さる方ばかりです」