海運の新たな商機「CO2海上輸送」に試金石、世界初〝フルスケール〟CCS始動
海外の石油大手3社のジョイントベンチャー(JV)「ノーザンライツ」によるCCS(炭素の回収・貯留)が、2024年末に始動する。二酸化炭素(CO2)の回収から液化、海上輸送、貯留まで全てのバリューチェーンにまたがる“フルスケール”CCSは世界初の取り組みで、今後の大規模CCSの試金石となる。ノーザンライツ計画から、海運の新たな商機となるCO2海上輸送の展望を探る。 ノーザンライツは24年内に始まるフェーズ1で年150万トンのCO2を貯留し、次のフェーズ2で同500万トンに拡大するという大型計画だ。米シェル、仏トタル、エクイノール(ノルウェー)のJVが実行する。欧州域内のさまざまな工場からノルウェー西岸のターミナル施設までCO2を海上輸送し、ここからパイプライン経由で海岸から約100キロメートル沖の地下2600メートルの地層に注入する。 注入時はCO2に温度と圧力をかけ、地層に最もしみ込みやすい、気体と流体の両方の性質を持つ「超臨界」の状態にする。地中は高温・高圧状態のため超臨界状態を維持し、1000年後には鉱物になるという。 同計画でCO2輸送船の運航などを担う川崎汽船の金森聡常務執行役員は「初期から入って続けることがCO2海上輸送の勝ち筋だ」と意気込む。民間だけでなく国も関係する長期間の取り組みのため、信頼できるパートナーであることも重要だ。 川崎汽船は日本によるマレーシア・サラワク沖でのCCS検討への参画や液化天然ガス(LNG)などの低温輸送の実績、JV株主との取引実績などから選ばれたとみられる。 欧州ではノーザンライツ以外に、海上輸送を含むCCSが27―28年ごろに始まり、日本のプロジェクトはその後に続くと予想される。金森常務執行役員は「CCSが成り立つ要因は三つある。ノルウェーはこれがいち早くそろった」と指摘する。 要因とは、炭素税、国からの補助、CO2圧入先の確保だ。ノルウェーは採掘済みの油田などを活用し、CCSのキープレーヤーを目指している。ノーザンライツのフェーズ1は国が設備費の80%を補助し、フェーズ2も比率は下がるが補助を継続する。必ずこの分野をリードするという強い意志がみえる。 欧州やアジアでは海を挟んでCO2排出元と圧入先があるため船による輸送が必要だ。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に向けてCCSが行われる限り海上輸送の需要は堅い。 金森常務執行役員は「世界のCO2輸送船の需要規模は30年代半ばに約200隻になる」と予想する。同社はCCSでの年間CO2貯蔵量は20億トン、このうち海上輸送は10%、1隻当たりの輸送能力は年100万トンとして試算した。もっと多く見積もるシンクタンクもある。 新市場をどうつかむか。企業においては競争と同時に、着実に市場を立ち上げるための連携も求められている。