じつは、フランスで「日本のカキ」が大絶賛を浴びているワケ…疫病の大ピンチを救った、三陸《宮城種》のスゴイ生命力
カキが旨い季節がやってきた。ジューシーなカキフライ、セリがたっぷり入ったカキ鍋、カキご飯……。カキ漁師は、海で採れたてのカキの殻からナイフで身を剥いて、海で洗ってそのまま生で食べるのが好みだという。 【写真】これで110円とは…東京のうまい「町寿司」ネタを一挙大公開 そんなカキ漁師の旅の本が出版された。『カキじいさん、世界へ行く!』には、三陸の気仙沼湾のカキ養殖業・畠山重篤さんの海外遍歴が記されている。 「カキをもっと知りたい!」と願う畠山さんは不思議な縁に引き寄せられるように海外へ出かけていく。フランス、スペイン、アメリカ、中国、オーストラリア、ロシア……。世界中の国々がこんなにもカキに魅せられていることに驚く。そして、それぞれの国のカキの食べ方も垂涎だ。 これからあなたをカキの世界へ誘おう。連載第2回「「森には魔法使いがいるんだよ」…宮城県の養殖家が、世界中を旅して知った「カキの旨み」の驚きの正体」にひきつづき、フランスの河口から広葉樹の森を遡っていく。 どんな胸躍る出会いがあるのだろうか。
パリジェンヌに誘われてフランスのカキ養殖場へ
かき研究所からやってきた若いフランス人女性の名前はカトリーヌ・マリオジュルスといい、フランスの名門ソルボンヌ大学で博士号を取得した研究者です。我が家では養殖場のカキをフランス料理店に直売していましたから、フランス料理の話で盛り上がりました。 やがてカトリーヌさんは、母のつくる郷土料理を食べに来るようになりました。そのうちにわたしは、 「いつか、フランスの海を案内してくれませんか」 と冗談のように話すようになりました。 ある日のこと、突然カトリーヌさんがこう言いだしたのです。 「1カ月後に帰国しますから、旅のことがもし本気ならご案内しましょう」 驚きました。4人の子育ての真っ最中です。しかし、このチャンスを逃すまいと、なんとか旅費を工面して、研究所のO君とエールフランスに乗り込みました。 地中海側のローヌ川が注ぐラングドック地方から、ジロンド川、シャラント川が注ぐボルドー地方、そしてフランス最大のロワール川が注ぐブルターニュ地方と、沿岸域の養殖場を見学する旅に出発です。1984年5月のことでした。 わたしたちは新緑のまぶしいパリで笑顔のカトリーヌさんと合流。フランスの高速鉄道TGVでローヌ川沿いを南下し、最初の訪問地、地中海沿いのモンペリエに到着しました。翌朝、海燕の鳴き声で目覚めたわたしは、すっかり旅の気分です。 でも、ロビーで集合したカトリーヌさんの表情が昨日までと違うのです。じろっとわたしたちを見据えると、 「その恰好はなんですか。あなたたちは何をしに海に来たのですか!」 カトリーヌさんはひざまである長靴をはいています。すでにパリジェンヌから研究者に変身していたのです。こちらはといえば、背広に革靴……。まいりました。