8年かけて定着?「ブラックフライデー」 実はAmazonより早かった意外な先駆者が
根本はチラシセールと同じだが…
このブラックフライデー、私は平成デフレからのV字回復のひと押しになっていくのではないかと考えている。 平成不況においては、日常の必要なモノをなるべく安く買うという消費行動が一般化した。それにより、PB(プライベートブランド)商品が定着し、スーパーもEDLP(エブリディ・ロープライス=年間を通じて低価格で販売する戦略)のオーケーストアなどが人気となった。 ユニクロやニトリのようなSPA(製造小売)では、生産地を中国を中心とする海外に移すことによって、買いやすい価格を実現し、支持もされた(その一方、国内のモノ作りを空洞化させ、雇用を海外に流出させたという批判もある)。 小売業からすれば、ブラックフライデーのような期間限定セールは、昭和から続く消費喚起手法の基本である。セール目的の来店やネット通販サイトの閲覧増により、新たな顧客接点が生まれ、購買機会の創出と「ついで買い」による客単価のアップが狙える企画だ。根本はチラシセールと同じである。 ただし、小売業のセールというのは、基本的にメーカーがそのコストを負担する場合が多い。そのぶん、メーカーの利益が減り、小売側も薄利多売となり非効率な販売となる。さらにセール販売は、より安さを求める消費者の要求が高くなるため、どんどん収益がマイナスになる。セール期間が延長されれば、販売個数は伸びるものの、収益の少ない商品の販売割合構成比が上がり、トータル的にはメーカー収益が落ちることにも繋がる。 セールのやり過ぎは、モノを作る会社を疲弊させるとともに、平成デフレ的な節約スタイルが定着することを招きやすい。その結果、中長期的には企業の収益を悪化させ、雇用や賃金に悪影響を与える可能性が生じてしまう。
本場のブラックフライデーは世界の経済を占うイベント!?
ブラックフライデーも、このようにデフレ的な要素は強いものの、今年のように高付加価値な商品の展開が増えていけば、経済への好循環が期待できる。 なぜなら「ちょっと贅沢」というプラスアルファ消費は、一度経験すると継続的に購買につながる可能性があるからだ。これを繰り返すことで、消費マインドが節約モードから脱却するかもしれない。 ちなみに、本場アメリカのブラックフライデーは、今年はどうだったのか。アメリカのGDPの約7割を占めるのは個人消費だから、アメリカの経済動向は世界経済に影響する。ブラックフライデーをはじめ年末年始商戦は世界の経済を占うイベントでもある。 ショッピングモールへの来店が全国調査でマイナス3%減という速報値のとおり、実店舗の売上高は昨年比0.7%増と、昨年を下回る伸び率だった。アメリカの長引くインフレによる節約思考の高まりがうかがえるが、ただし、これは購入形態がネットへ移行している関係もある。ネット販売は14.6%アップで、昨年よりも高いペース。全体では3.4%の売り上げ増と、昨年を上回ったようだ(マスターカード・スペンディングパルス調べ)。 米小売業界の関係者によると、 「ネットを中心に堅調に推移し、消費意欲は旺盛でした。ただし、トランプ大統領の関税引き上げの警戒心から、“ただ安いから買う”という無計画な購買は少なくなっているようで、それが実店舗の売り上げに現れているのでは」 さらに米国では、ブラックフライデー後にも商戦がある。ニューヨーク在住の作家・冷泉彰彦さんによると、 「感謝祭の翌週の月曜日にあたる『サイバーマンデー』に、ブラックフライデーでの買物忘れ需要があります。ECサイトを中心としたセールですが、アメリカの職場は、業務裁量権が個人にあり、成果さえ出していれば勤務時間中のネットショッピングお咎めなし。なので『サイバーマンデー』の存在感も近年増しています」 実際、アドビ・アナリティクスのデータでは、今年は昨年比7.3%増で133億ドルと、過去最高を記録した。いずれはサイバーマンデーも日本に定着するだろうか。できればブラックフライデーのような「ちょっと贅沢」を促すようなイベントとして定着していってほしいと思う。 渡辺広明(わたなべ・ひろあき) 消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務などの活動の傍ら、全国で講演活動を行っている(依頼はやらまいかマーケティングまで)。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。 デイリー新潮編集部
新潮社