パリ五輪の新種目「ブレイキン」の"スポーツ競技化"の裏にあった苦悩
スポーツ競技化によって大きく変わった点のひとつが、各国の代表選考に影響を与える国際大会の増加だ。今回の日本代表選手4人も、昨年の世界選手権とアジア大会、そして今年2試合行なわれたオリンピック予選シリーズ(OQS)の結果を基に選出された。だが......。 「かつては『出たいときに試合に出る』ことがスタンダードでしたが、(選手たちは)五輪出場に向けて、毎月のように国際大会に出場しないといけなくなり、連戦の中で安定したパフォーマンスを披露する必要に迫られた。これまでに経験がないことですし、競技化に伴う大きな変化だと思います」(石川氏) 過密な日程で試合が続く中で、実力のある選手も〝競技〟としてのあり方に疑問を感じ、気持ちが落ち込んで潰れかけてしまうといったことが世界各地で見られた。 そのような状況に、石川氏は「やるべきかどうか」を迷ったこともあったが、「ダンスのカルチャーを理解する人間だからこそ、スポーツ競技化を進められるのでは」という思いでスポーツ化を進め、いよいよ五輪でのお披露目となる。 ブレイキンにとって初の五輪は、フランス革命の舞台であり、平等な世界が来ることを願ってつくられたパリのコンコルド広場で開催される。男女各16人の出場選手は、まず4人による総当たり戦を戦い、その上位2人によるノックアウト形式のトーナメント戦が行なわれ、初代五輪王者が決定する流れだ。 紆余曲折あった新競技の頂点へ。大会前の記者会見で、SHIGEKIXが「当日はたくさんの人が応援してくれると思いますが、その中でも僕が一番楽しんでやろうと思っています」と意気込めば、AMIも「全力で楽しむことを大切にしたい。ブレイキンとはこういうものだと見せられたら」と決意を語った。 巧みな動きを組み合わせた選手たちの個性のぶつかり合いが、多くの人々の感動を呼び起こすこととなるだろう。 「採点方法が細かいので、事前にルールを調べてから見たほうがわかりやすいとは思いますが、まずは選手それぞれの特徴を探して楽しんでもらいたい。初めてご覧になる皆さんも、『ピカソとゴッホ、どちらの絵が素晴らしいかを選ぶ』ような感覚で実際の試合や採点に注目していただけたらと思います」(石川氏) 若い世代を呼び込むことを目的に五輪の種目に採用されたブレイキン。〝競技〟としての新たな歴史をどう紡いでいくのか、楽しみだ。 取材・文/白鳥純一 写真/アフロ