自閉症の子の会話力を育てる「正しさより楽しさ重視」の声かけ
脳が育つ声かけと脳が育たない声かけ
ママやパパとの肯定的なコミュニケーションは、子どもの脳にとって一番の栄養です。 自閉症の子には「正しい」ことよりも「楽しい」ことを脳に覚えさせてください。なぜなら、「楽しい」という感情は「ママやパパに伝えたい」というコミュニケーション意欲の源になるからです。 「じゃあ、遊園地に毎日連れて行かなくては」ということではありません。おうちでのコミュニケーションを肯定的な声かけに変えるだけで、みるみる脳が育ちます。さらに大好きなママやパパとのコミュニケーションで安心感が得られると、好奇心が育ち、自発的な行動が増えていきます。中長期の目標として「自発的な行動」を目指す子育てが自閉症児のおうち療育のキーポイントです。 ある2人のママがいました。 みかちゃんのママはいつも子どものできたことに注目して「できたね!」「ありがとう!」と声をかけます。みかちゃんがイタズラをしているときには「わお、ティッシュいっぱい出したね!」などと受けとめてから、一緒に片づけようと声をかけました。肯定的なコミュニケーションで育ったみかちゃんの脳は好奇心が育ち、「もっと楽しいことを探したい!」と自分から考えて動けるようになりました。その結果、自閉症の診断があっても、年長時には自分のことがほぼできるようになりました。 一方で、ゆう君のママはわが子の発達の遅れをなんとか取り戻そうと焦ってしまい、「早くして!」「イタズラはやめなさい!」と怖い顔でゆう君を否定するコミュニケーションを続けました。叱られるたびに、ゆう君はフリーズしてしまいます。年長になっても自分で考えて動くことはせず、なんでも「ママやって!」と頼るようになりました。 小学校に入学しても、新しいことにはチャレンジせず、いつもと同じであることにこだわる脳に育ってしまったのです。 2人のママの対応の仕方を読んで、皆さんはどう考えるでしょうか? 人とコミュニケーションをとるときは、ことばを聞いたり、理解したり、表情を読んだり、感情が動いたりと、脳全体が活発に動きます。ママやパパが笑顔で話しかけ、子どもが楽しいと感じるコミュニケーションは、幸せホルモンが放出され、脳の血流が増え、酸素や栄養素が脳に運ばれて活性化します。 しかし自閉症の子は、不安が高まりやすく、ネガティブな記憶をためやすい脳をしています。障害が重いほどストレスを受けやすく、周囲の大人たちによる過度の叱責やイライラが長期間にわたると、学習やコミュニケーションに大きな影響を及ぼします。大人はそんなつもりはなくても、つい口にした「ダメでしょ!」が自閉症の子にとっては全てを否定されたと感じられることさえあります。 私たちが思っている以上に、脳の成長は毎日の声かけで大きく左右されます。声かけ1つで、脳が育つ栄養を与えることも、脳が育たない環境にしてしまうこともあります。 そして誰よりも、大好きなママやパパとの肯定的なコミュニケーションこそが、子どもの脳を育てる最良の栄養になるのです。 自閉症の子は発達がゆっくりです。だからこそ、毎日良好な栄養を与え、発達の芽を親の力でグーンと伸ばしていきましょう。
今川ホルン