タイ 美術館&ギャラリーガイド。現代タイを考えるポリティカル/ソーシャルなアートスペース7選+α(文:福冨渉)
【パッターニー】Patani Artspace(パタニ・アートスペース)
東北タイとはまた違った視線にさらされてきたのが、マレーシアとの国境に接するタイ深南部に住む人々だ。全国的に見れば仏教徒が9割を超えるとも言われるタイで、深南部3県と呼ばれるパッターニー県、ヤラー県、ナラーティワート県では、イスラームの人々の人口が8割を超えるとも言われる。政府による同化政策や弾圧の結果引き起こされた分離独立運動が現在も続いており、タイ国内では「内なる他者」の住む危険な紛争地域とみなされがちである。だが人々はその場所に根を張って日常生活を送っているわけで、外部からの独善的な視線と内部の実際とのはざまに置かれてしまっている場所とも言えるかもしれない。 そんな深南部3県で「最初のアートスペース」とされるのが、2014年にオープンしたPatani Artspace(パタニ・アートスペース)だ。深南部のアーティストの作品を中心に、現地社会の実情を映し出すような展示を多く開催している。現在はパッターニー県内のほかのスペースと協働して、国際アートフェスティバル「Kenduri Seni Patani 2024」を開催中だ。 ただその実態を見てみると、たんに各国のアーティストを招き、地域の痛ましい歴史を描く作品を展示するというだけに留まっていないことがわかる。同時進行で料理大会やボート競技会、詩の朗読会に影絵芝居の上映までおこなわれており、そこに多くの地域住民が集まっている。その意味では、地方のコミュニティスペースとして成功を収めている稀有な例と呼ぶこともできるのかもしれない。 隣のソンクラー県との県境からほど近く、南シナ海を望むアジアハイウェイ18号線沿いのドーンラック群役場の近くにスペースはある。ただ深南部3県は、日本の外務省が発表する「危険情報」において、レベル3の渡航中止勧告が出されている。そのためここで積極的な渡航を呼びかけることはできないが、いずれにせよ現地の友人や知人を頼っての訪問が現実的だろう。 Facebook:https://www.facebook.com/PataniArtspaceArtMuseum Instagram:https://www.instagram.com/patani_art_space/ ということで、いくつかのスペースを、まったく個人的なフィルターのもとに紹介してきた。最後に番外編として、実際にスペースとしては存在しないが、興味深い「ミュージアム」を紹介しておく。