南海トラフ地震 介護施設でどう対応? 能登半島地震で支援活動し、体制を見直す施設も…BCP策定済み26%
南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が2024年8月に初めて発表されたのを機に、介護施設で防災対策を強化する動きが広がっている。津波による被害が心配される沿岸や河川流域に立つ施設では、高齢者を安全に避難誘導したり、地域住民を受け入れたりできるよう体制作りを急ぐ。対策が遅れがちな小規模事業所の取り組みが課題だ。(野島正徳) 【図解】ペットボトルのふたはどう開けている? 開け方でわかるフレイルのサイン
「うちの施設は二つの川の間の地域にある。氾濫すれば、挟み撃ちされる」。11月中旬、徳島市の特別養護老人ホーム「阿波老人ホーム仙寿園」(鉄筋4階建て)の屋上で、男性職員が川を指さした。
寝たきり・車いす 対応再考
1級河川の吉野川と支流の新町川に囲まれ、太平洋へと注ぐ河口の2キロ付近に施設が立つ。南海トラフ地震が発生すれば、津波が川をさかのぼって約40分で到達し、2階部分まで浸水する恐れがあるという。 1階はデイサービスや事務室で、2階には入居者80人のうち40人が暮らす。津波が発生した場合、階段を使って3階以上に逃げる「垂直避難」を行う計画だが、ほとんどが寝たきりか、車いすを使っている人だ。一方、避難誘導にあたる職員は夜間の場合、6人しかいない。 臨時情報の発表を受け、施設長の吉田光子さん(77)は「いつか南海トラフ地震が発生するという、今までとは違う緊張感が生まれた」と言う。 それまでは1人の高齢者を職員2人で抱えるなどして運ぶ計画だったが、迅速に避難できるよう、担架2台を購入した。棒でかつぐ担架だと、階段の踊り場を回る際、手すりや壁につっかえて時間がかかる心配があるため、折りたためる樹脂製のタイプを選んだ。 「利用者の避難誘導で消防や地元の自治会とどのように連携するかなど課題を点検し、訓練を通じて職員の対応力を高めていきたい」と吉田さんは語る。
災害時に地域住民を支える役割が期待されている施設もある。 浜松市の特別養護老人ホーム「西島寮」は、南海トラフ地震で津波が発生すれば、近隣の住民らが逃げ込んでくる。施設はハザードマップの浸水想定区域の外にあり、市の津波避難ビルに指定されているからだ。 防災担当の美濃幸弘さん(61)は24年1月の能登半島地震の際、全国老人福祉施設協議会の災害派遣福祉チームの一員として被災地で支援活動をした。ある施設では、想定を超える約200人の被災者らが避難し、備蓄の食料が不足したという。「今までの想定が通用しない場合への備えが求められる」と痛感し、西島寮の防災体制を見直している。 入居者は約80人で、災害時に地域住民30人の受け入れを予定する。さらに、自治会との協定に基づき、周辺地域に一人で暮らす、介護が必要な高齢者10人ほどを受け入れる計画だ。 水や非常食は、避難者や職員の分も含めて4日分を備蓄しているが、避難者が増えたり、道路の寸断で支援物資の到着が遅れたりすれば、食料が底をつく恐れがある。備蓄を1週間分に増やすか検討を始めた。 職員は、入居者のケアを継続しつつ、避難者への支援も求められる。一方、職員やその家族が被災し、出勤できないかもしれない。美濃さんは「人手が限られる中でも、業務を継続できる体制を作りたい」と言う。