今井悠介×増村莉子×岩本菜々「令和の大学生のリアル」
地方という「壁」
増村》私は東京大学の学生団体FairWindの代表を務めています。「地方高校生に、追い風を」をスローガンに、地方と都市部の教育格差の解消を目指して活動しています。東大の2025年版「大学案内」によると、一般選抜合格者2993人のうち東京出身者は1021人、東京を除く関東出身者は745人で、実に6割が関東出身者で占められています。生まれた場所により受けられる教育の機会や質に大きな差があることは明白で、このことは個人だけでなく社会にとっても、人材の多様性を狭めることによる損失を生んでいるのではないかと考えています。 FairWindでは高校生向けのイベント開催と、メールマガジンと動画の配信などを活動の軸としています。イベント活動は、たとえばキャンパスツアーを開催して高校単位で申し込んでいただいたり、私たちが各県に伺ってプレゼンテーションやディスカッションなどをして高校生と一緒に学習計画を立てたりといった内容です。 私は現在法学部の3年生ですが、石川県金沢市の公立高校出身で、まさに地方高校生の一人でした。自分なんかが東大に行けるわけがないと思っていた一人なのですが、FairWindがオンラインで私たちの高校向けにセミナーをやってくれて、東大や東大生のイメージが大きく変わったんです。すごく限られた情報だけで判断していたことに気づいて、すぐにメールマガジンに登録して、みんな高校時代はこうやって勉強していたのか、二次試験当日はこうやって過ごせばいいのかなどを知ることができました。受験勉強のモチベーションが湧いてこないときの過ごし方などもすごく参考になって、私自身も石川県という地方の「壁」を破ることができたと思います。 今井》FairWindはやはり地方出身の学生が多く在籍しているのですか。 増村》東大と同様に、東京都の出身者が一番多いのが実情です。ただ、自分が恵まれた境遇にいることに違和感を抱いた人が入ってきてくれて、私たち地方出身者だけでは持ち得ない視点から意見を言ってくれるので、とても助かっています。 岩本》どちらの視点も重要なのは、よくわかります。ちなみに地方出身かつ女子学生となると、東大全体での比率はかなり下がると思うのですが、メンバーの男女比は? 増村》女子学生が3割くらいで、東大全体より女子比率が少し高くなっています。1代前は代表、副代表が全員女性だったりと、女性の発言力は強いですね。 ――それにしても皆さんそれぞれにご自身の経験や、社会に対して覚えた違和感が活動の出発点になっているのですね。 今井》それは大きいと思います。岩本さんはコロナ禍のさなかに大学生だったのですね。 岩本》そうですね、3年生でした。 今井》大学生にとっては厳しい経験ですよね。 岩本》ただ私は、逆にコロナ禍で全部が止まってしまって救われた部分もありました。就活もほとんどストップしてしまったので、全てのことから少し距離を置いてニュースを見たり本を読んだりする時間に充てていました。そのときに差別や労働の問題に取り組んでみたいと思ったんです。 今井》POSSEの活動はそこからですか。 岩本》それがきっかけです。以前から在留資格のない外国人たちが劣悪な状態で収容されている入国管理の問題にも違和感がありましたし、女性というだけで賃金が低くなるといった差別にも疑問は持っていましたが、普段の生活では頭の片隅に追いやっていたように思います。しかし、コロナ禍で社会が大きく混乱する中でそれらの問題を無視できなくなりました。POSSEのメンバーでもひと回り上の人たちはリーマン・ショックをきっかけに貧困や労働問題に関心を持った世代に当たりますが、私たちは「コロナ世代」なのかなと思います。 今井》それはすごくわかります。CFCの母体は阪神・淡路大震災をきっかけに発足しましたし、僕らはリーマン・ショックから東日本大震災を経て、貧困や学習格差にクローズアップした世代なので、フェーズの変わり目を契機に活動に踏み出したというお話にはすごく共感します。