障害者手帳、障害年金だけじゃない! 精神疾患・発達障害の人のための「経済的支援」制度はこんなにあった
ある福祉研究者は「自立とは、他者に依存しない独力行為だけを意味するのではない。ときには積極的に他者からの支援を獲得する行為を含む」【註1】という言葉を残している。その通りだが、そもそも支援してくれる制度の存在を知らなければ、自立の機会も得られない。 【画像】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待「すべてが壊れた日」 精神疾患・発達障害がある人が住みなれた地域で自活したいと望むとき、一体どこにサポートを求めればよいのか。先立つものをいかにして得ればよいのか。障害年金が専門の青木聖久教授(日本福祉大学)に我が国の主な「経済的支援」制度のあらましを聞いた(インタビュー・構成:江本芳野)。 前編〈駅で「とびこめ! とびこめ!」という声が…「統合失調症」その本当の苦しさをソーシャルワーカーだった私が身に染みて知った日〉より続く。
生きる・暮らすためには経済的支援が必要不可欠
精神疾患・発達障害のある人が地域で暮らしていくには、大きく「経済的支援」「居場所」「地域生活支援体制」の3つが必要です。 なかでも絶対的に必要なのが、経済的支援です。人はお金がなければ生きていけません。一方、支援を受けることで経済的基盤ができれば、生活が安定します。生きるために必要な、衣食住の費用にあてることができます。お金にはそのような「直接的な効果」があります。 また同時に、お金には「生活の質の向上に使える」という間接的な効果もあります。例えば、野球が好きなら球場で試合を観る、音楽が好きならコンサートに行く、といったことですね。たとえ2ヵ月に一度でも自分の好きなことにお金が使えれば、生活にメリハリができ、生きがいにもなります。 これは何も趣味に限りません。家族と同居している人のなかには、「障害年金の一部を家に入れている」「米代は自分が出すことにしている」という人もいます。自分も経済的に貢献することで、家の中で堂々としていられる、過ごしやすくなるわけで、これも支援の効果です。 こんなケースがありました。精神疾患を抱え、長年作業所に通っている男性が、同じ作業所の女性と結婚しました。症状のため、外で働くなど考えられないような人でしたが、子どもができたのを機に、なんと男性は焼肉屋でアルバイトを始めました。 アルバイト代は月7万円。親子3人で生活するには心もとない額ですが、夫婦とも障害基礎年金2級を受給しており、13万円(当時の額)の収入がありました。足すと20万円になります。20万円あれば、贅沢はできないまでも地域で暮らしていくことは十分可能でしょう。 年金という「土台」があることで、自分の障害に応じた働き方ができ、アルバイト代も活きる。支援制度のとてもいい使い方の一例だと言えます。 家計を助けてくれる経済的支援は、いうなれば「生活安定剤」です。支援によって生活が安定し、必要が満たされれば、本人や家族の心も安定します。経済的支援は気もちを前向きに変え、社会へ一歩踏み出す後押しをしてくれる「起動装置」でもあります。さらに支援を活かして自立し、社会に貢献することができれば、自己肯定感が育まれます。この自己肯定感こそ、当事者にとって最も必要なものなのです。