自分は普通にしているつもりなんですけど──さかなクンの、「奇跡すギョい多い」人生
自分は普通にしているつもりなんですけど
今でこそ「多様性」、「個性の尊重」は常識的になりつつあるが、さかなクンが、学生生活を送った当時、人との違いをからかいやいじめの対象にする風潮は強かった。さかなクンのような個性的な子どもは、多数派と交わりづらいこともあったのではないだろうか。 「確かに、夢中でタコの絵を描いていたら、最初はからかわれて、『やーい、タコタコ』とか言われたんです。でも、自分は『タコ』と呼ばれることが嬉しくて。『タコって呼んでくれてありがとう!』。冷静に考えれば、からかいだったんだと思うんですけど、『タコ、ターコ』って言われて『そうだよ、タコだよ』なんて返してたら、からかいがいがなくなっちゃったんでしょうね。『そんなタコって面白いのかよ?』ってなって。『だったら、俺たちにも見せてくれよ』、『じゃあ、一緒に磯へ行こう!』って、そうやって自然に、みんなでワイワイガヤガヤと……」 進学した高校では、太いボンタンを履いたヤンチャな同級生たちとも、一緒に魚つりをして楽しんだという。 「人には、とにかく恵まれてきたと思います。どうしてか…、いや、自分は普通にしているつもりなんですけど、周りの人たちから見たら、危なっかしいんですかね。同学年でもみんな、兄貴みたいな感じで、自分がみんなの弟。俺たちがなんとかしてやらないとミー坊(当時のあだ名)は大変、心配だよな、って、そんな感じで思ってくれてたんですね、たぶん。挫折しそうになったことも、山のようにあります。でも、家族、学校の先生、友達が、ずっと気にかけてくれて、今の自分があります」
勉強しろと言ったことは一度もない母親
「ミー坊」を「さかなクン」たらしめたのは、好きなことをとことんやらせてくれた母親だ。勉強しろと言ったことは一度もない。「お魚が大好きなんだから、好きなだけ絵を描くといいよ」と背中を押し、どんな生き物も飼うことを止めず、あらかじめ水槽を買っておいてくれることすらあった。魚屋でさかなクンが興味を示したものがあれば、切り身ではなく丸ごと買い、一緒に料理をした。 「自分が没頭しているものを、決して止めることなく、むしろ喜んでどんどん応援してくれる母ですので。子どもの夢をすギョく、さらにワクワクへと誘ってくれる、優しい母です。自分が今のように大好きなお魚のお仕事ができているのは、運がいいからだと思っているんですが、それも、母のおかげ。『あなたは絶対!運がいい』っていう本を、母がプレゼントしてくれたんですよ。その本によると、思ってることは声に出したり、周りの人に伝えてあげると実現へのすごい近道になるそうなんです。ことばがすギョく強い力を発するので、嫌なことや相手を傷つける言葉を言うと、どんどん負のオーラになっちゃうそうなんです。嬉しいな、幸せだな、自分は運がいいなっていうと、運がいい人同士が巡り合って、上昇気流に乗るそうなんです。だから自分は、こうしてお魚の感動が続けられているのかな、って」 誰かに会いたい、この魚を見てみたい、そう念じていると、目の前に現れる。そんな奇跡を、何度も体験してきた。 「それがすギョい多くて。本当に、ありがたいかぎりでギョざいます」