自分は普通にしているつもりなんですけど──さかなクンの、「奇跡すギョい多い」人生
基本的にしてることは、魚も人間も同じ
「魚と人間の違いは、何ですか?」と尋ねると、目をきらりと光らせて、「水か、陸かです」と即答した。 「水の中でえら呼吸できるか、陸で肺呼吸するかの、それぐらいの違いじゃないでしょうか。海に生命が誕生して、最初はゆらゆら骨もなく生きてるクラゲちゃん、イソギンチャクちゃんだとか、そういった世界でした。だけどその中で、『よーし、しっかり泳ぐために背骨を持つぞ』って、背骨を持つ始まりの生き物が今のホヤちゃんだとか、ナメクジウオちゃんだって言われてるんですけど、その仲間がさらに、『もっと骨を強化するぞ、強い骨を、カルシウムを』って、アギョ(顎)もしっかり、パクパクできるようになってお魚に進化したと言われております。そのお魚たちから、『よーし、新しい世界を開拓するぞ、水の外に出るぞ』というお魚が出てきて、『やめとけー、干物になるぞ』、『いや、俺は行くんだ!』。『わあー、干からびるぞ』、『だけどゆっくり上がれば大丈夫だぞ』って、『よーし、乾燥に勝ったぞ!』…っていうのが両生類になってカエルになったり、イモリになったり。そこからさらに乾燥に打ち勝つ肌を持つ恐竜、カメ、トカゲ、ヘビ、爬虫類。飛ぶ鳥に進化し、派生して哺乳類になっていったっていう進化があるんです。そう考えると、水に住むか、水の外に住むかだけの違いですよね」
「人間はもちろん言ギョ(言語)でコミュニケーションも取りますし、文明も築き上げるし、それはお魚にはない社会かなと思うんですけれども、だけれども、基本的にしてることは、息をして、物をじっと見て匂いを嗅いで、食べて生き、子孫を残しっていう。同じことをしてると思うんです」 進化の過程を語るさかなクンの、表情の豊かなこと。魚、そして生命そのものへの情熱が、彼の真骨頂なのだと思い知らされる。 魚をこよなく愛するさかなクンは、自身のライフプランについて、考えることはあるのだろうか。 「それが、まったく。たとえば20代で結婚して、30代で家を建てて…とか、みなさまそうやって、人生設計を立ててらっしゃると思うんですけど、自分は全然。2000年から頭にハコフグの“さかなクン”を覚えていただきました。ただただ楽しく、お魚に夢中になれる、こうやってみんなで幸せになれるこの機会が、ずっと続けられたらいいなと思っています」 現在は千葉県の館山市に暮らしている。館山にある研究施設、東京海洋大学水圏科学フィールド教育研究センター「館山ステーション」には、さかなクンの研究室がある。これまでたくさんの夢を叶えてきたさかなクンだが、「お魚の魅力を多くの人に伝えたい」という使命感は変わらず、さらに世界へと目を向けている。