厚生年金はいつまで払う? 60歳以上の保険料や支給額の違いをわかりやすく
厚生年金について「何となく知っているつもりだけど、保険料は給与天引きなので意識してないし、将来もらえる年金の額がどのように決まるのかもわかっていない」という人は少なくないと思います。 この記事では、そのような人に向けて、厚生年金と国民年金はいつまで払えばよいのか、保険料はいくらか、いくら支給されるのか、などの基本的な内容を説明します。
1.年金制度とは
年金制度は、公的年金と私的年金(企業年金、個人年金)に分けられます。 ●公的年金 国民年金(基礎年金)、厚生年金保険(厚生年金) ●私的年金 確定給付企業年金(DB)、確定拠出年金(企業型DC、個人型DC〈iDeCo〉)、国民年金基金など 公的年金は公的保険制度の一つであり、老齢、障害、死亡の三つのリスクに備える保険です。年を取ったら受け取る「老齢年金」、障害者になったら受け取る「障害年金」、働き手が亡くなったら受け取る「遺族年金」などの給付があります。 この記事では、厚生年金(会社員などが加入)と国民年金(20歳以上60歳未満の国民全員が加入)に的を絞り、それぞれの加入期間、保険料、老齢年金の支給額について紹介します。
2.厚生年金はいつまで払う? 保険料と支給額
厚生年金保険料は、年齢に応じて支払うものではなく、厚生年金保険に加入する形で「働いている間(最長70歳になるまで)」支払います。 保険料は給与と賞与の額に応じて決まり、基本的には給与、賞与から天引きされるため、自身で納付手続きをする必要はありません。 (1)厚生年金の加入期間 厚生年金保険の適用事業所(会社の本社・支社・支店・工場、商店、船舶、官公庁など)に雇われている70歳未満の一定の人が、厚生年金保険の被保険者(加入者)です。 加入期間は、厚生年金保険に加入した月から(入社した月などから)退職日の翌日の前月まで(退職日が3月31日なら3月まで)であり、月単位です。 ①60歳になったら厚生年金は支払わなくていい? 「60歳になっても保険料を払わなければならないの?」と聞かれることがありますが、回答は「厚生年金保険の適用事業所で働き続けるのであれば、70歳になるまでは保険料を納める義務がある」となります。 ちなみに、定年退職などのタイミングで短時間労働に変わっても、勤務先(事業所)によっては保険料を納める義務があります。 ②70歳以上になっても払い続ける(加入し続ける)こともできる? こちらについては「会社などに勤め続けていても、70歳になれば厚生年金保険に加入する資格を失う」のが原則です。したがって「不可能」が回答です。 ただし例外として、70歳到達時点で「『資格期間※』10年以上」という要件を満たしておらず、70歳を過ぎても会社などに勤める場合は、資格期間要件(10年)を満たすまで厚生年金保険に任意加入することができます。 ※資格期間とは、厚生年金保険の加入月数、国民年金保険料の納付月数などを合算した期間のことです(「資格期間」という専門用語は、このあとも登場します)。 (2)厚生年金の保険料 厚生年金保険料は被保険者(本人)の給与と賞与の額に応じて決まり、本人と事業主が半額ずつ負担(折半)します。 保険料は、給与と賞与の額を基にした「標準報酬月額」と「標準賞与額」に保険料率(18.3%)を掛けて算出します。折半ですので、本人負担の率は9.15%です。 ●標準報酬月額 ・「厚生年金保険料額表」で 、給与の額と「報酬月額」が合致する行の左端「標準報酬、月額」が標準報酬月額 ・表の右端「折半額」が本人負担の保険料 ・標準報酬月額を変更するタイミングには、毎年4月から6月までの報酬月額を基に標準報酬月額を見直す「定時決定」と、定時決定を待たずに標準報酬月額を変更する「随時改定」がある ・給与額は63万5,000円が上限(これを超えても保険料は増えない) ●標準賞与額 ・賞与の額から1,000円未満を切り捨てた額が標準賞与額 ・標準賞与額の9.15%が本人負担の保険料 ・1カ月あたりの賞与額は150万円が上限(これを超えても保険料は増えない) 「60歳以降、厚生年金の保険料は減るの?」と聞かれることもあります。厚生年金保険料は給与と賞与の額に応じて決まるものであり、年齢は関係ありません。 したがって、給与(賞与)が減れば保険料も安くなりますし、反対に給与(賞与)が増えれば(上限までの範囲で)保険料は高くなります。 (3)厚生年金の支給額 老齢厚生年金の年金額の内訳には「報酬比例部分」「経過的加算部分」「加給年金額」などがありますが、報酬比例部分が大部分を占めるため、報酬比例部分の計算方法を紹介します。 厚生労働省や日本年金機構が広報している正式な計算式を簡略化すると、次のようになります。 ●報酬比例部分 = 加入期間中の「標準報酬月額」と「標準賞与額」の総額 × 0.005481 誤差は大きくなるものの、次のようにさらに簡略化することもできます。 ●報酬比例部分 = 加入期間中の平均年収 × 加入年数 × 0.005481 ここで算出された「報酬比例部分」の額が、老齢厚生年金の受け取り見込み額(1年分)です(あくまでも概算です)。なお、2003年3月以前の加入期間については計算式が異なりますが、本記事では割愛します。 厚生労働省の資料を参考に計算すると、平均的な収入(平均標準報酬〈賞与含む月額換算〉43万9,000円)で40年間就業した場合の老齢厚生年金は、月額換算で9万4,483円、1年分なら113万3,800円となりました(参照:令和6年度の年金額改定について p.1|厚生労働省)。 ●23万483円(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額) - 6万8,000円(老齢基礎年金〈満額〉1人分)× 2) = 9万4,483円 年金額は賃金や物価などの変動に応じて毎年度見直されるため、実際の年金額と先ほど紹介した計算式の計算結果は必ずしも一致しない点に留意してください。 ①厚生年金は65歳まで払うといくら増える? 納付済期間40年(480カ月)で満額となる国民年金(老齢基礎年金)と異なり、厚生年金に満額という概念はありません。したがって、生涯賃金が高いほど(正確には「標準報酬月額」と「標準賞与額」の生涯合計が大きいほど)支給される厚生年金は増えていきます。 「〇歳まで厚生年金を払うといくら増えるのか?」という質問がよくありますが、これは年収いくらで何年働くかを仮定すれば概算できます。計算式は、以下のとおりです。 ●今後の就労により増える報酬比例部分 = 今後の平均年収 × 今後の就労年数 × 0.005481 たとえば、60歳から65歳までの5年間に月収15万円(賞与なし)で働く場合を想定してみましょう。月収15万円の場合は年収180万円(15万円 × 12カ月)ですので、以下の計算になります。 ●180万円(今後の平均年収) × 5年間(今後の就労年数) × 0.005481 = 4万9,329円 60歳から65歳までの5年間に月収15万円(賞与なし)で働いた場合、65歳から受け取れる厚生年金は年間4万9,329円ほど増える見込みという結果になりました。 ②厚生年金は70歳まで払うといくら増える? 基本的な考え方は、上述の「65歳まで厚生年金を払ったとき」と同じです。ただし、年収の増減が見込まれる場合は、年単位に分解して計算しましょう。計算式は、以下のとおりです。 ●今後の就労により増える報酬比例部分 =(今後1年目の年収 + 2年目の年収 … + … n年目の年収)× 0.005481 たとえば、60歳から65歳までは年収180万円(月収15万円〈賞与なし〉)で働き、66歳から70歳までは年収144万円(月収12万円〈賞与なし〉)で働く場合は、以下のようになります。 (180万円 + 180万円 + 180万円 + 180万円 + 180万円 + 144万円 + 144万円 + 144万円 + 144万円 + 144万円) × 0.005481 = 8万8,792円 この場合は、年間8万8,792円ほど厚生年金の受給額が増える計算になりました。なお、この金額はあくまで概算です。