「全部あたしのだ」キツネ耳美青年の“狂愛”にゾクリ!人外ヤンデレ×ホラー作品「狐ヤンデレと霊感ちゃん」が話題【作者に聞く】
キツネの耳としっぽが生えた青年は少女のことが大好きだけど、時折ゾクッとするような強い執着心を見せる…。そんな2人を描いた「狐ヤンデレと霊感ちゃん」をはじめ、ヤンデレを中心とした作品をX(旧Twitter)やpixivにアップしているだやんカップさん(@dayancup)。「カップ産ヤンデレ」と称し、次々と魅力的なキャラクターを生み出しているだやんカップさんに話を聞いた。 狐ヤンデレと霊感ちゃん2 ■寂しがりやのキツネ。愛情表現は邪魔者の排除 ヤンデレとは、「病んでる」と「デレ」を組み合わせた言葉。相手への好意が強すぎるあまり、精神的に病んでいる状態やその人物を指す。「狐ヤンデレと霊感ちゃん」は、青年の姿をしたキツネの神様・時花(ときはな)と、人ではないものが見える少女・霊感ちゃんを描いた作品。孤独な少女を「変なの」から救ったことをきっかけに慕われる時花だったが、彼女を傷付ける人物の家を燃やすなど、だんだんと愛情表現がエスカレートしていく。 時花については、「名前の『時花(ときはな)』のとおり、時花神(はやりがみ)がモデルですね。あとは狐憑きや御霊信仰、お稲荷様の要素も入っています」と話すだやんカップさん。 「昔からホラーやオカルトが好きで、漫画や映画はもちろん、オカルト系のYouTuberさんの動画を見たりゆっくり実況を聞いたり、自身でもホラー恋愛漫画(ヤンデレ御曹司と■■お姉さん)や『吊り餌』というホラーゲームを制作したりしていました。そのなかでも特に、『ゆる民俗学ラジオ』さんの『流行神シリーズ』に大きく感銘を受けました。神とは普遍的なイメージがあったのですが、花のように咲き、花のように散る儚い神・時花神になんとも言えない物悲しさを感じ、私は物悲しいものが大好きなので『何かコレで1本できないかな?』と考え、また、『江戸っ子狐か…いい!」と不埒な考えも浮かび(笑)、この作品が生まれました」 もともとはオカルト寄りに話を考えていたそうだが、「執筆中にホラー作品『来る』と『疫(えやみ)』を視聴してしまいまして、完全にホラーの方に話が引っ張られています(笑)。特に、クセ強霊媒師の登場シーンや御札が焦げ落ちるシーンは『来る』をリスペクトしています」 時花は、一言で言うと「小賢しい寂しがりやの狐」だそう。「零落して寂しくて人恋しいくせに、かつて神であったプライドが邪魔をし、素直に『側にいて欲しい』と言えず、小賢しく策を弄して事態をややこしくした…みたいな感じです。霊感ちゃんのことは名前をもらった時点で『番(つがい)』と認定しているので、共に暮らしたがっていますね、永遠に」 反対に、霊感ちゃんは、霊感がある以外は普通の女の子。「その霊感のせいで周囲と上手くいかず、時花と同じく寂しさを抱えています。小学生から高校生の長い期間、2人はいいお友達でした。本編では、お祭りでの出会い(小学生)、名前を付けてしまった(中学生)、部活動での揉めごとおよび祟の発覚・顛末(高校生)と、厳密ではありませんが段階を経て話が進んでいます」 霊感ちゃんの時花への思いに影響を与えたのが、時花を祓うために呼ばれた霊媒師。最初の丁寧な口調から一転、時花に狙われ死を覚悟した際には、霊感ちゃんに「憑き物」の凶悪さや「お嬢ちゃんは悪くない」との言葉を本心が見える関西弁で投げかけ、焼かれてしまう。一見有能に見える彼だが、時花の姿を見たのは今際の際、御札とカーテンが破壊されたときだけだという。 「霊能力で力の差を感じ取ったみたいな感じです。時花は人の姿に化けているだけなので、経験がある霊媒師にはもっとおぞましいものに見えていたかもしれませんね。最初にかち合っていたらその場でトンズラして、ほかのまともな同業者に泣きついていると思います(笑)。本当は弱いので。実はタレントエセ霊媒師で、『由緒正しい寺で修行』『霊験あらたかな札』は全部嘘です。でも霊能力と今際の際に言ったことは本当だった…というのを、胡散臭い敬語とその後の関西弁で表現しようとしました。最期に本音を話して逝くキャラが大好きなので、言及してくださる方が多くてうれしいです。彼も浮かばれると思います」 ラストは、霊感ちゃんの「ずっと一緒にいる」という言葉を受けた時花が「全部あたしのだ」と言ったシーンで暗転。そのあとについては、「一応『こんな感じだろうな~』というのはあるのですが、話の流れ的に全部言うとしらけてしまう気がするので細かくは言わないようにしています。まぁ、一緒に暮らしているのではないでしょうか。それが幸せかどうかは読者の方の倫理観とご想像にお任せします」とのこと。 気に入っているシーンは、窓枠に肘をついて話している時花のシーン全般だそう。「気さくな兄ちゃん感と『どこから来てるんだ…?』と思うような若干のオカルト要素、そして状況が不穏になっていく様を、台詞込みでうまく表現できたのではないかと思っています。背景が徐々に夕焼けに変わり夜になり、カーテンが取りはらわれ、家と外の境界線がなくなっていくことで、取り返しがつかない状況になったことを表しました」 ■AIから和服美人まで…多彩なヤンデレ 「AIヤンデレと最後の人類ちゃん」は、コールドスリープから目覚めた地球最後の人類である主人公と、その世話をするAIのエピソード。「SF作品によくある『暴走したAI』ってヤンデレだよな…と思って描きました。たおやかムキムキ美人(男)と犬のような男が好きなので、キャラデザと性格については一番好きです。SFも好きなので、この世界観でIFゲームを制作中です」 「ヤンデレ御曹司と■■お姉さん」は、子どものころ結婚の約束をしたお姉さんを、成長して迎えに来るお金持ちの男の子が描かれている。最後の展開には、「あ、そっち!?」と思ってしまうはず。「小生意気な子どもを描きたくて制作しました。Xでは、この作品から反応が増えた気がします。ストーリー展開についてお褒めの言葉をいただくことが多いです。ホラーが好きなので、この展開は描いていて楽しかったです」 「和服美人ヤンデレと異類婚姻譚(強制)」は、和風ホラーを感じさせる。「よもつへぐいと繰り返しが好きなので描きました。pixiv内では9000ブックマークと、現状トップの人気作です。『こかげさま』自体を好きと言ってくれる方が多くうれしいです」 「ヤンデレ騎士(?)に国を滅ぼされる姫の話」は、最後まで読むと、タイトルの「(?)」の意味がわかる構成になっている。「カップ産ヤンデレシリーズ1回目の話ですね。どんでん返しが好きなので、『清廉潔白な騎士が恋心に狂い凶行を…と思いきや』みたいなヤンデレ作品があったらいいなぁと思って描きました」 だやんカップさんが描く作品には、ほかにも多彩なヤンデレが登場する。「2020年ごろに『ヤンキーくんとオタクちゃん』という連作を描き始めたのが最初ですね。とあるヤンデレフリーゲームにドハマリして、『自分もこんな素晴らしい作品を作りたい!』と筆を取ったのがきっかけです。このゲームがなければ、そもそも創作すらしていないのでは…?と思います」 コマ割りがある漫画とは異なり、一人称視点の1枚イラストが連なるような形式も特徴的だ。「私がよく見ていた、いわゆる夢作品(オリジナルキャラクターが版権キャラクターや版権作品世界と関わる様が描かれる二次創作)では画面の前の『私』に向かって愛を囁く…というような一人称視点が多かったんです。それから、Xでは一人称視点で女の子が何かしてデレる…といった男性向け一次創作も多く拝見したので、もともとなじみがありました。そして、初作の『ヤンキーくんとオタクちゃん』では登場人物はヤンキーくん(八木君)しか考えていなかったので、なんとなく明確なお相手がいない場合はこんな感じで描くのかな~と、画面の前の『あなた』=オタクちゃんという夢作品の体で描いていました。そこから、ほかの作品も『ヤンキーくんとオタクちゃん』に習い、同じ形態になりました」 さらに、ゲーム制作も行っているだやんカップさん。「ノベルゲームを2作品、探索ゲームを1作品制作しました。『八木君は後輩くん』は、過去の作品『ヤンキーくんとオタクちゃん』をたたき台にイラストをすべて描き直し、追加シナリオを入れたヤンデレノベルゲームとなっています。TGF2022(サイト内のイベント)にて佳作に選出されました。『つよつよ魔女だから汚部屋でも魔法薬を作れちゃうんだからねっ!』は、主人公の魔女・ベゴニアがなくした鍵を一緒に探してあげる、簡単でコメディ調な脱出ゲームです。『吊り餌』というゲームは、とある家で起こる、青年たちと親子の顛末を描いたホラーノベルです。TGF2023にてスポンサー賞に選出されました。ノベルゲームコレクションにて、すべてプレイできます。すべてのゲームはスマホプレイに対応しているので、ぜひプレイしてみてください」 読者からのコメントや反応は創作活動の励みになっているそう。「すべてありがたく受け取っています。全キャラ病み散らかしているのに、それでも『好き』と言ってくださる皆様には感謝しかございません。『こかげさま』というキャラに対しては、結構『女の子じゃなかった…』と悲しみのコメントが届きます(笑)。需要があるのなら、女体化や女の子のヤンデレも描いてもいいなと思いました」 今後については、「コマ割り形式の漫画にまた挑戦してみたいな~という思いがあります。とりあえず何か1作品出したいです。あとは商業展開とか…(笑)、趣味を仕事にできたら楽しそうですね」と話してくれた。 「カップ産ヤンデレ」は「狐ヤンデレと霊感ちゃん」のような長編からサクッと見られる作品までそろうので、好みのヤンデレが見付かるはず。彼らの重い愛を一人称視点で体感してみては。 取材・文=上田芽依