IT系や金融系のシン富裕層がわが子を入れたがる千葉と奈良の急伸私立とは…昔からの富裕層と全然違うワケ
■これから支持される名門校とは 後発の学校が急激に進学実績を伸ばすケースには、いくつかのからくりがあると小林氏は指摘する。 「古くからの名門校には、とくに学校側が宣伝などをしなくても優秀な子たちが集まってきて、難関大学に合格し、それを見た優秀な後輩たちがまた集まってくるという循環がありました。それがない状態から難関大学への進学実績を上げるには、少なくとも最初のうちは、生徒にある程度の無理を強いる負荷の高い学習指導をする必要があります」 伝統名門校に届かないレベルの生徒たちに、塾がそうした学校を進学先として推奨し、学校側はその子たちを鍛えて進学実績を上げていくパターンもある。そうした環境がわが子に合うかどうかは、親として考えるべきポイントだろう。もっとも、優れた進学実績を長きにわたって持続していくうちに、伝統校と同様に優秀な子が集まる好循環が発生し、校風が変わっていくケースもある。 共学志向の高まりやグローバル志向といった新しいトレンドの中、今後、どのような名門高校が支持されるのだろうか。 「私が気になっているのは、特に地方の伝統校の中で継承される、戦前からのいわゆるバンカラ文化です。行事や部活で先輩が後輩に高圧的な指導を行うケースがあります。しかし、現代の価値観の中で、それは時にパワハラや単なる野蛮と見なされ、今の子たちは容易に受け入れないでしょう。一方で仙台第一(宮城県)や盛岡第一(岩手県)のように、バンカラスタイルの応援団の団長に女子が就任するような新しい動きも起きています。伝統を守りながらも、時代の変化に対応できる学校が評価され、発展していくと考えています」(同) 多くの伝統的名門校は「自治・自立・自由」の精神を自校のアイデンティティーとして掲げている。これからはますます自由でクリエーティブな発想を持つ人材が必要とされていくはずだ。難関大への進学実績より、こうした精神的伝統を重視する富裕層も、いずれ増えていくのかもしれない。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月1日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 小林 哲夫(こばやし・てつお) 教育ジャーナリスト 1960年生まれ。神奈川県出身。95年から『大学ランキング』編集を担当。著書に『東大合格高校盛衰史』(光文社新書)、『高校紛争 1969―1970』(中公新書)、『中学・高校・大学 最新学校マップ』(河出書房新社)、『学校制服とは何か』(朝日新書)、『神童は大人になってどうなったのか』(太田出版)、『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー)、『「旧制第一中学」の面目 全国47高校を秘蔵データで読む』(NHK出版新書)、『早慶MARCH大激変 「大学序列」の最前線』(朝日新書)などがある。 ----------
教育ジャーナリスト 小林 哲夫 文=川口昌人