IT系や金融系のシン富裕層がわが子を入れたがる千葉と奈良の急伸私立とは…昔からの富裕層と全然違うワケ
■地域社会で存在感を放つ千葉高と鳥取西高 こうした各地の公立名門校からは、政治やビジネス、学術や文化・芸術といった幅広い分野に優れた人材が巣立っていった。そのうち地元で名士となった人々の多くは、自らの子どもも同じ母校で学ぶことを期待する。小林氏の知るケースでは、親子5代にわたって同じ公立高校に通い続ける一族もいるという。地域トップ校合格を期待される子どもは勉強が大変そうに思えるが、「親が教育熱心」「家に本がたくさんある」といった環境要因によって、学力が継承される効果も考えられる。 地域の名門校に進むことには、難関大への進学実績以外にも大きなメリットがあると小林氏は指摘する。それは、地元での強い人脈を獲得できることだ。 「旧制一中にあたる各地の公立名門校の出身者は、地元の県庁や金融機関、新聞社やテレビ局、地元の大学病院など、それぞれの地域社会の中枢となるような企業や公的機関に就職する例が多い。たとえば千葉県庁なら千葉高校、鳥取県庁なら鳥取西高校の出身者が強い存在感を発揮しています。 地域トップ校から東大に進学し、総務省(元・自治省)の官僚になってから知事として地元に舞い戻るパターンも少なくありません。以前、47都道府県知事の出身高校を調べたところ、10人近くが地元の一中出身で、二中、三中まで含めると半分近くになって驚いたことがありました」(同) 都市圏の難関大学に進学してから全国区の企業に就職し、出身地の拠点に営業担当や支店長として赴任する例もある。その場合、先輩・後輩のつながりのなかでビジネスの機会が生まれることや、仕事上困ったときに手を差し伸べてくれるメリットも生まれるだろう。わが子が地元に残ることを望む親にとっては、公立名門校から地元の国立大学に進み、そこから地元の県庁や地銀などの金融機関に就職することが、望むべき人生コースのひとつになっているのだ。 また、昔の名士は自分の娘を大事にして、「お嬢様学校」と呼ばれるような女子校に進学させたがる傾向があったが、最近それは薄れつつあるという。理由のひとつは「共学に行くと男にたぶらかされて危険」といった価値観が形骸化したこと。お嬢様学校に進学して学校生活を楽しめなかった母親が、自らの経験から女子校を回避したがるケースもあるようである。もうひとつの原因は、少子化などでの学校統廃合による共学化の進行だ。1975年には1180校あった男女別学の高校は、2023年度は368校にまで減少。男女別学の公立高校は全国で42校しか残っていない。関西では四天王寺(大阪府)と神戸女学院(兵庫県)を除けば難関大志向の女子のニーズに応える私立女子校が少なく、成績優秀層の女子にとっては、共学校が貴重な選択肢となっている。 ■東大合格者が激減した日比谷が復活した理由 とはいえ、すべての公立名門校が、創立から長きにわたってトップ校として君臨してきたわけではない。日比谷、洛北(京都府)、岡山朝日(岡山県)のように、かつては屈指の東大・京大合格者数を誇りながら、一時期、進学実績を大きく落とした学校もある。 「その原因は、1970年代に各都道府県が相次いで導入した『高校平準化策』によるものです。60年代から70年代にかけては、過酷化していた受験戦争批判とともに、エリート教育やエリート校批判が強まった時代でした。『勉強のできる子がエリートになって、官僚として国を動かしていくような体制はよくない』『そもそも人間はみんな平等で、頭のよしあしで差をつけてはいけない』という論理で、高校間の学力差を極力少なくしようとする方策が各地で進められたのです」(同) 学校間格差を減らすには、できる子が一部の学校に集中することを封じればいい。学区を細かく分けて越境通学を禁じた小学区制や、いくつかの学校を組み合わせて成績分布が均等になるよう機械的に振り分ける学校群制度など、都道府県ごとにさまざまな制度が試みられた。そうした「旧一中潰し」により、64年には193人もの東大合格者を出していた日比谷高校は、70年は99人、73年には29人と数を落としていき、93年にはたった1人までに減少。その後は2004年まで、多くの年で東大合格者ひと桁の時代が続いた。 「公立高校からの『頭脳流出』が止まらない状況に各自治体もしだいに危機感を持つようになり、近年になってこれらの措置は相次いで緩和・廃止されました。また一部では、東京都の石原慎太郎元知事や大阪府の橋下徹元知事のように、名門公立校を復活させようという強い意志をもった首長が登場し、改革に乗り出したのです」(同) その結果、一時は落ち込んだ公立名門校の進学実績も回復しつつある。政策的なバックアップを受け、学内改革が進んだ日比谷高校は、2024年入試における東大合格者は60人(うち現役52人)。北野高校に至ってはここ数年以上京大合格者ランキング全国1位を守っており、24年の京大合格者は89人(うち現役59人)になった。今、一時期衰退した公立名門校は再評価されつつある。