鉄道の衰退は人災だった、SLを走らせて「昭和の汽車旅」と言ってももはや通用しない
■ いつまでも「昭和レトロ」ではダメ ――自分たちの仕事は運ぶことであると、そう考えるようになるのでしょうね。特に鉄道の現場というのは、縦割りの社会ですから。 鳥塚氏:SLを修理させたら天下一品の仕事をする。そういう人間は必要です。鉄道会社にとって宝物です。 けれども、そういう人が、「それはできない」と言ってしまうと、鉄道の現場を知らない経営者はその言葉を信じるしかないから、結果として、鉄道会社の仕事がどんどん減っていってしまう。 いま「鳥塚さんが来たら、今まで懸案だったことが、すぐに実現しました」と、会社からは言っていただいています。つまり、何事であっても、考え方の根拠があれば、話し合いができるということです。 経験主義だけが横行してしまうと、その話し合いの機会がなくなってしまうのです。それを変えていくのも、これからの課題と考えています。 ――大井川鐵道といえば、蒸気機関車の保存運転で知られてきました。近年は「きかんしゃトーマス」の運転で注目されています。一方で、蒸気機関車の現役の時代を知る人の数が減り、若い人たちにとって、蒸気機関車は懐かしい乗り物ではなくなったという見方があります。 鳥塚氏:国鉄が蒸気機関車を廃止して、もう50年経つんですよ。それを、いつまでもノスタルジーだとか、昭和の汽車の旅だとか言っても通用しない。 それであれば、私たちが新しいファンを育てていかなければいけないんですよ。会社をつないでいくためには売り上げが必要ですから、まずは「トーマス」でいいんです。 一部のファンは、青い蒸気機関車を見てケチョンケチョンに言いましたけれども、あの機関車は、たくさんの親子連れを大井川鐵道に呼び込みました。 いつまでも「昭和レトロ」と言い続けていてはダメなんです。それを「トーマス」で盛り返した。
■ 商品は「時代に合わせて変えていかなければいけない」 ――「きかんしゃトーマス」の運転が始まった時は、お客さんが殺到しました。私も取材に行ったのですが、千頭駅前に車を止めることができないくらいでした。「この先の川根両国の駅前まで行ってください。そこに駐車場があって、シャトルバスが運転されています」と言われ、これはとんでもないことになったなと思いました。 鳥塚氏:商品というものは、「時代に合わせて変えていかなければいけない」ということではないでしょうか。 たとえば、硬券切符ってあるじゃないですか。これは蒸気機関車と一緒で、私たちの世代には硬券切符は懐かしいものなのだけれど、今はもう切符自体がないのですから、切符そのものを知らない人だっているかもしれない。 駅員さんがハサミで切符を切るって何? ということです。 今はQRコードを付けるとか、LINEのスタンプがダウンロードできるとか、そういう商品を作っていかなければダメなんです。 ――中高年の人たちだけが、昔のまま同じ世界に生き続けている… 鳥塚氏:私たちが子供の頃、「栄養豊富」とか、「栄養満点」という言葉につられて食べ物を買っていたじゃないですか。アイスクリームの乳脂肪分が何パーセントだとか、それが良かった。 けれども今は、栄養なんかあったらいけない(笑)。「カロリーオフ」と言わないと商品が売れない。それと同じですよ。 いろいろなメーカーが研究を重ねて、競いあって商品が開発される。鉄道の世界はどうですか?