鉄道の衰退は人災だった、SLを走らせて「昭和の汽車旅」と言ってももはや通用しない
■ 「地域の足」「採算」ばかりの議論でいいのか 鳥塚氏:公的な援助を仰ぐのであれば、将来的に事業を継続しなければならない。とすると、崩落した箇所だけではなく、ほかのトンネルや鉄橋についても安全性をチェックし、必要があれば改修工事を実施しなければなりません。 自己資金ですべて直せるのであれば、問題ないのかもしれませんが、何億円もの費用をどう調達するのか、あるいは公的な援助を仰ぐのであれば、その枠組み作りをどう進めてゆくのか。その検討に時間がかかっているのが現状です。 ――今の時代、インフラまで含めて 全部を一私企業で対応するのは無理ですよね。恐らくは、国や自治体が面倒を見なければ何も始まらない。 鳥塚氏:国とか県とか市とかがね。ところが、そうなるとみんなが綱引きを始めちゃうというのが、今の日本の社会です。みんなお金は出したくないから。 次に、「鉄道は、地域の足になってないでしょ。だって、お客さんが乗っていないのだから」という声が上がってくる。コミュニティバスを運行すればいいのだと。 けれども、状況をもっと大きな目で見て、静岡県の中でお金を稼げるところはどこなのか、県にとってプラスになる部分、あるいは日本の国にとってプラスになる部分は何なのか? こういう問題をきちんと考えていかないとダメなんじゃないですか? 地域の足だとか、採算ベースだとか、そういう話ばかりではなくて。 ――皆でマクロ的な視野を持とうということですね。ところで、実際に静岡に赴任されて、想像と違っていたことって、ありますか? 鳥塚氏:大井川鐵道は、長い歴史のある会社です。それだけに自己流のところも多いなとは感じましたね。 ではなぜ、自己流なのか?
■ 鉄道にもマーケティングが必要 鳥塚氏:現場の人は、先輩、上司からそう教えられて、それを守り続けています。けれども、そういう考え方が長く続くと、「上から教えられたことだけをやっていればいいんだ」という考え方に陥ってしまう。 新しいことを何も勉強しようとしないのであれば、企業として社会についていけなくなってしまうのではないでしょうか。大井川鐵道にしても、ちゃんと黒字だった時期があったのですから。 ――SLの運転で集客できたからですか? 鳥塚氏:コロナ禍の前には、SLの運転が続けられていて、団体のお客様が大挙してバスでやって来てくれた。(SLの拠点である)新金谷駅前の広い駐車場がバスでいっぱいになっていたわけです。 それが今、バスの運転手の勤務時間が見直され、昔ほど簡単にはバス旅行が企画できない時代になりました。すると、旅行会社の営業は、鉄道会社ではなく旅行会社をまわるようになり、パンフレットと名刺だけ置いてゆく。けれども、それだけでお客様を呼ぶことができると思いますか? ――マーケティングができていない、と。 鳥塚氏:できていないと思います。お金の動き方も変わってきているんですよ。 昔は、銀行員が何日かに一度、鉄道の現場をまわっていたのです。運賃収入という「日銭」がありますから、銀行員はそれを回収していくのです。 ところが、今は駅で切符を売らないでしょ? ――運賃の支払いはほとんどICカードです。 鳥塚氏:そう。台風が来て観光列車が運休になったとしましょう。3~4日続けて運休になると、1000万単位の欠損が生じることになります。すると何カ月か先の入金がなくなり、資金繰りが大変になります。 ところが、鉄道の現場で働いている人は、そういう動きを気にしようとしない。