野菜が安いことはいいことなの?農業ベンチャー社長が考える日本の農家の未来
クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。今回は、株式会社マイファーム代表取締役の西辻一真さんがゲストです。 ◇ ◇ ◇
耕作放棄地での“農業体験事業”をスタート
小竹:京都大学農学部を卒業して1年間サラリーマン生活を送り、2007年に起業されたのですよね? 西辻さん(以下、敬称略):そうです。24歳のときにマイファームを創業しました。僕は農家になりたくてマイファームを作ったので、最初は畑を借りて自分で野菜を作って売りに行こうと思ったんです。 小竹:そうですよね、普通は。 西辻:ただ、当時は農地が借りやすい制度もなかったし、農家になると言うとみんながやめとけと言う時代だったので、農地情報すら出てこない。それでやっと出てきたのが耕作放棄地でした。この2000平米くらいの耕作放棄地を直すためにとりあえず土木会社に連絡をしたら、400万円で畑にしてくれるという見積もりが出てきたんです。だから、地元の地銀さんに行って「400万円貸してください」と言ったら「返せるの?」って言われて…。 小竹:まあ、そうですよね。 西辻:そこで初めて、2000平米のところに万願寺唐辛子や鹿ヶ谷かぼちゃという京野菜を植えて祇園に持って行くといくらになるかという計算を始めたんです。すると、400万円なんて全く返せない。これがみんながやめとけと言う理由なんだとそこでわかりました。 小竹:高校時代に見ていた耕作放棄地が、なぜそのままなのかがわかったのですね。 西辻:これではお金も借りることができないと思って、初めて手書きで事業計画書を作り始めました。でも、どうやっても400万円を返すのは難しかったので、野菜以外の価値も提供しないといけないと発想を変えたんです。 小竹:なるほど。 西辻:楽しい野菜作りを伝えることがこのフィールドできると思ったので、農業体験の場所にしようと考えました。野菜を植えるだけだと面積に寄ってしまうけど、野菜の収穫体験チケットをたくさん売れば、満杯になっても別のところでやることができるので、ここをフィールドにした体験チケットを売っていくという形で計算したら、いけるかもとなりました。 小竹:400万円返せるかもと。 西辻:銀行に出したら「これは新しい農業ベンチャーかも」と言ってもらえて、お金を借りてスタートしました。僕は野菜作りが好きだという気持ちを伝えたかったので、収穫したものを食べてもらいたいというところまではコミットしていなかった。だからこの発想が出てきました。 小竹:そのときは何人くらいに売る目標だったのですか? 西辻:1000平米で50組くらいのお客さんに年間チケットを買ってもらうという計画でした。50人に満席でチケットを売ると野菜がなくなることもありますが、農家は売って初めてお金が入ってきますが、チケットは先にお金が入ってくるので、野菜がなかったら隣のおばちゃんの畑をお金を渡して借りることができる。サブスクとかクラファンみたいなことを僕らは17年前からやっていました。 小竹:そんな風に耕作放棄地を農地に変えていくのが最初に行った事業なのですね? 西辻:お金が先に入ってくるので青田買いができる。お金が入ってきてお客さんがついてくると思ったら次のところを借りるという感じでした。農業界は先に作ってからお客さんを見つけに行きますが、僕はお客さんを見つけてから畑をやるので流れが逆です。それが成功につながった1つのポイントだと思います。 小竹:ちゃんと農作業をしてくださいというよりは、楽しむのが中心という形なのですよね? 西辻:そうです。ハイヒールで来る奥さんがいたんです。普通は怒られますが、僕は面白いなと思って、それで穴を掘って種を植えられるなって。それをほかの農家さんに話すと「お前はめちゃくちゃだな」と言われますが、僕は楽しいからいいって思ったんです。 小竹:楽しみを伝える上で、どういったことを提供していたのですか? 西辻:「せっかく畑に来ているのに植え付けだけをするのはもったいない」と僕はよく言っていました。雰囲気や風、天気とかも楽しんでほしい。地域のお祭りにも参加して収穫祭などの文化にも触れてほしいと伝えるし、畑に来た喜びやそこからわかることをいっぱい感じてほしいと思っています。