気候変動に取り組む医師らが立ち上げた「みどりのドクターズ」、医療業界の脱炭素化目指す
記事のポイント ①気候変動に取り組む医療従事者らが「みどりのドクターズ」を発足した ②医療・保健・介護業界からのGHG排出は、日本全体の約5%を占める ③業界の脱炭素化と、医療従事者や患者さんへの啓発活動を推進する
医療・保健・介護業界のGHG(温室効果ガス)排出量は、日本全体の排出量の約5%を占め、産業別では5番目に多い。気候変動に取り組む医療従事者ら有志は、一般社団法人みどりのドクターズを立ち上げ、気候対策の啓発活動と、業界のネットゼロ宣言に向けた運動を推し進める。(オルタナ副編集長・北村佳代子) 「気候変動はいのちに直結する問題だ」。 滋賀県で総合診療医として、生後2か月の赤ちゃんのワクチンから100歳を超える高齢者の在宅看取りまで、地域の患者さんを診る佐々木隆史氏は、強い危機感で警鐘する。 世界保健機関(WHO)によると、気候変動は、21世紀最大の単一死因ファクターだ。1年間で、タバコで800万人、高血圧で1000万人が亡くなる中、栄養失調やマラリア、下痢、暑さなど、気候変動の影響で亡くなる人は年間1300万人に上る。 佐々木氏は、「目の前の患者さんを助ける医療行為で温室効果ガスを排出し、それが、次の患者さんを生み出すことにつながっている」ことに忸怩たる思いを抱える。
■「みどりのドクターズ」を発足
コロナ禍の2020年、英国NHS(国民保健サービス)が世界の医療保険制度として初めて「2050年ネットゼロ」を打ち出した。佐々木氏は、NHSの医療従事者向け環境教育プログラムにオンラインで参加し、日本でも同様の啓発活動を開始した。 そして地球環境に配慮した医療を提唱する医師らを中心に2022年に発足したのが一般社団法人みどりのドクターズだ。佐々木氏は代表理事として、ヘルスケア業界向けの気候関連啓発活動と、政策変更を訴える運動を中心に推進する。 現在、みどりのドクターズには、全国の医師、薬剤師、医学生ら約50名が参画する。参画といってもメンバーは全員、有志のボランティアだ。日中は医師・薬剤師として業務に従事し、空き時間に、地球と人の健康のために、ビジネス用コミュニケーションアプリ「Slack」を使って活動する。 みどりのドクターズの中核メンバーの一人、神奈川県の整形外科医・太田知明氏は、メンバーらの抱く危機感を、自身が長年従事した救急医療の現場と重ねる。 「生きるか死ぬかの患者さんを前に、医療者はその人を救うことだけを純粋に考えて動く。資本主義社会でお金がつきまとうのは仕方ないのかもしれないが、命や健康はお金では買えない。それは地球も同じだ。人の健康を守る医療者と同じような視線で、より多くの人に、地球の健康を守る医療者になっていただけたらと思う」