気候変動に取り組む医師らが立ち上げた「みどりのドクターズ」、医療業界の脱炭素化目指す
■気候変動への危機意識を医療現場にも届けていく
2023年11月にアラブ首長国連邦・ドバイで開催されたCOP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)では、COPとして初めて、健康に焦点を当てて気候変動を議論する「ヘルスデー(健康の日)」を設けた。これは、気候変動が健康と深く関わることを世界が強く認識した証でもある。 COP28に向けて医療業界からは、グローバル・クライメイト・ヘルス・アライアンスや世界医師会、国際看護協会などが、議長国に対して化石燃料への段階的廃止を訴える書簡を提出した。みどりのドクターズのメンバーも署名活動に参画し、COPの動向を逐一メンバー間で情報共有した。 こうした活動に、日本から賛同を表明した団体は多くなかった。「おそらく、気候変動に興味がないからではなく、こうした活動があるという情報そのものが医療の現場にまで流れてきていないのではないか」と太田氏は考える。 例えば、WHOに事務局を置く気候変動と健康に関する変革的行動のための国際イニシアチブ「ATACH*(アタッチ)」には100か国以上が賛同しているが、日本はまだ賛同を表明していない。G7で未参加なのは日本とイタリアだけだ。 みどりのドクターズは日本医師会や特定NPO法人・日本医療政策機構などとも連携し、日本政府にATACHへの賛同や政策変更を訴える。 *ATACH:Alliance for Transformative Action on Climate and Healthの略。
■「薬」はヘルスケア業界の排出量の1割
業界の排出削減に向けては、医療現場で使われる吸入器デバイスや、冷蔵冷凍庫、エアコンなどの具体的な事例を挙げ、排出削減の視点で見直すことの効果について発信する。 ヘルスケア業界のGHG排出の1割は薬が関係する。武田薬品工業やアストラゼネカなど、脱炭素に向けて努力する製薬メーカーも多い。 みどりのドクターズの中核メンバーの一人、北海道紋別市のチェーン薬局に勤務する薬剤師・佐藤絹子氏は「薬局が、患者さん側の排出に働きかけるのは難しいが、薬局で使う電力を再エネにしたり、リース車両をEVに切り替えたり、削減できる余地は多々ある」という。 しかし、組織内で気候変動関連の勉強会開催を提案した際に、「テーマがグローバルすぎる」という理由ですぐには実現できず、チェーン薬局ならではの取り組みの難しさや歯がゆさも感じている。「チェーン薬局の組織は、一般企業と似ている。脱炭素の取り組みを加速するには、トップの気候変動への意識向上が必要だ」と力を込める。 滋賀県東近江市で地域薬局を経営する中核メンバーの一人、大石和美氏は、薬剤師として、薬の適正使用を啓発していくことが、排出削減にもつながると考える。 「日本は国民皆保険制度の下で、処方薬が安価に手に入る。使われずに廃棄したり、期限切れの残薬を大量に保管していたりする人も多い」という。 持続可能な医薬品パートナーシップを提唱する英ユーメイカー(YewMaker)の調査では、世界で毎年4.5兆個製造される医薬品のうち、数十億個は使用されずに廃棄されているという。 「高齢者など、複数の薬を服薬する人も多いが、6種類以上の薬の併用(ポリファーマシー)は薬物有害事象も多い。薬剤師として、薬の適正使用を、患者さんにも医師にも啓発していくことで、患者さんの健康を守り、さらには医療費の低減や薬に伴う排出量の削減につなげたい」(大石氏) *この続きはオルタナ・オンラインでお読みください。 ■医師国家試験でも「気候変動」が問われる時代に ■近江の医師が推奨する健康・環境・コストの「三方良し」