「バスケできない環境で給料をもらっているのが居心地が悪くて…」プロバスケ選手が“絵本作家”になろうとしたきっかけはコロナ禍…異色の二刀流プレーヤー・ドルフィンズ・佐藤卓磨に迫る
バスケットボールりそなB1リーグ・名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(名古屋D)の佐藤卓磨(29)にはプロバスケットボール選手に加え、“絵本作家”というもうひとつの顔がある。社会貢献活動の一環で初めて制作した絵本「ぼくはキリン」(303BOOKS)が、2024年10月に市販化されるとすぐに重版決定。反響が耳に届く中、バスケ界の“シン二刀流”に作品に込めた思い、続編など25年に懸ける思いを聞いた。 「誰にでもある自分の強みを生かす」 佐藤は絵本「ぼくはキリン」に込めたメッセージを口にした。身長197センチと日本人選手としては長身ながら走力もあるという「武器」で、プロへの道を切り開いた自身の経験が創作のタネになった。2022年にクラウドファンディングで資金を集め、絵は絵本作家のカワダクニコさんが担当。前所属の千葉J時代を含め、これまで幼稚園、保育園、児童養護施設など約4000カ所に絵本を届けた。 きっかけはコロナ禍だった。「バスケができない環境で給料をもらっているのが居心地が悪くて」。自身も2児の父、教育分野への関心も手伝い、「形に残るものを」と思い付いたのが絵本だった。昨年10月の市販化、即重版、読み聞かせも行い、反響の広がりも感じた。「全く縁がなかった業界の人とも知り合うことができた」。絵本が名刺代わりにもなった。 “作家”佐藤は想像し、創造する。過去の習慣と現在のルーティンがアイデアの源泉。現在は、自宅近くの神社への朝散歩、1人サウナ。就寝前に書くバスケ日誌は過去から続く。自分と向き合う中で思考し、脳内に浮かんだイメージをノートに書き写す。 「ぼくはキリン」はバスケットボールを通じて、動物がそれぞれの強みに気付く物語。そこにはバスケを知って、好きになってほしいとの願いも込めた。「支えてくれるファンがあってのプロ選手」。コートでのプレーに加えて、絵本がファンとつながり、裾野を広げるツールになると信じている。 好きな言葉は「人間万事塞翁(さいおう)が馬」。人生では何が良くて何が悪いのか、後にならないと分からない。「『こんなはずじゃなかった』からが人生」とニヤリと笑う。「まだ子どもたちに伝えたい思いや考えがある」。続編の構想を膨らませている今、新たなメッセージも浮かんでいる。 「すぐに失敗と捉えてしまっているように感じる。もう少し自分に優しくてもいい」 来季は新たに開場するIGアリーナを使用するため、今年は現在のホーム、ドルフィンズアリーナのラストイヤーとなる。今季はやや出遅れ気味だが、昨季の地区優勝の味を知る副主将は言う。「この冬が命運を分ける。頑張るではなく、何が何でも勝ちをもぎ取る。それが僕らの仕事。チームの真価が問われている」。作家からプロバスケ選手の顔に変わっていた。
▼佐藤卓磨(さとう・たくま)1995年、札幌市生まれの29歳。197センチ、93キロ。ポジションはSG/SF。プロ8年目。2023年、千葉Jから名古屋Dに加入し、今季は副主将を務める。「初心を忘れずに」と、本格的にバスケを始めた中学時代に初めて付けた14番を今も背負う。
中日スポーツ