考察『光る君へ』42話「この川でふたり流されてみません?」今度こそ一緒に逝く、でもあなたが生きるなら共に生きる…まひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)の「川辺の誓い」
大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00~)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。42話「川辺の誓い」では、光源氏を主人公とする物語を書き終えたまひろ(吉高由里子)が、病がちだという道長(柄本佑)を訪ね、大切な会話をかわした後、その先の物語を書き始めます。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載44回(特別編2回を含む)です。
明子の嘆き
長和元年(1012年)道長(柄本佑)の三男・顕信(百瀬朔)の突然の出家。このことが公家社会に与えた衝撃は大きかった。 俊賢(本田大輔)「顕信は残念なことであった。されど内裏の力争いから逃れ、心穏やかになったやもしれぬ」 妹である明子(瀧内公美)を見舞った俊賢の慰めの言葉は、まるで弔問のようだ。当時の人にとって出家は世俗との繋がり一切を断つ、社会的な死を意味した。病床に伏した明子の姿はまさに子を亡くした母のそれである。 明子「比叡山は寒いでしょう。身ひとつで行ったゆえ凍えてはおらぬであろうか……」 息子になにかしてやれることはないかという思いだけが、彼女を生かしているか細い糸だ。 喉にも顎にも力が入らず、ろれつが回らないまま出てくる言葉が暖かい衣をたくさん送ってやってほしいという願い。瀧内公美の演技に、俊賢と共にもらい泣きしてしまった。 『栄花物語』は、顕信から突然出家の申し出を受けた高僧・行円の困惑と、両親である道長、高松殿明子の嘆きを伝えている。 嫡男・頼通(渡邊圭祐)の「父上も傷ついておられます」という言葉通り、道長も父親として深い傷を負ったのだが、左大臣に心を癒す暇はない。 三条帝(木村達成)は道長の次女・姸子(きよこ/倉沢杏菜)を中宮とし、先の帝(塩野瑛久)の中宮であった道長の長女・彰子(見上愛)を皇太后にと決めた。更に、道長の兄である道綱(上地雄輔)は中宮大夫に、道長の五男・教通(姫小松柾)を中宮権大夫にと、后周りを道長の縁者でガッチリ固めてくれるというこれ以上はない提案だ。左大臣・道長にとってはありがたい話だが、41話での帝の交渉術を思い出すと、裏はないのかと一歩引いて考えてしまう。果たして、これにはやはり交換条件があった。 東宮時代からの糟糠の妻である娍子(すけこ/朝倉あき)を皇后にというのが三条帝の願い。娍子の父・藤原済時は大納言であり、長徳元年(995年)に疫病でこの世を去っている。道長は大納言の息女が皇后となった例はないと抵抗した。 ドラマ内では「それならば姸子のもとには渡らぬ、渡らねば子はできぬ。それでもよいのか?」と帝が言いだしヴィランぽく微笑んでいるが、史実では「大納言の息女は皇后となった例がない」ために、亡き済時に右大臣の称号を贈り(追贈)、体裁を整えて立后としたのだった。
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