考察『光る君へ』42話「この川でふたり流されてみません?」今度こそ一緒に逝く、でもあなたが生きるなら共に生きる…まひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)の「川辺の誓い」
まひろ……お疲れ様です!
立后の日の記憶を振り払うように、夢中で愛娘をあやす実資……独特のあやし方が面白過ぎるんですが。そしてレビュー特別編第2弾(で触れた、千古(ちふる/子役さんのお名前不明)がいる! 以前公任の四条宮で昼下がりの情事とばかりに御簾に入っていた女房・百乃(千野裕子)が母のようだ。実資が幸せならよかったよ……。 一帝二后とはなったが、中宮・姸子に三条帝のお渡りはない。お渡りがないから宴をするのか、宴をするからお渡りがないのか。左大臣・道長の悩みは解消されない。どうしたら姸子のもとに帝のお渡りがあるかの相談、そして同時に安らぎを得るためにまひろの局を訪ねる。 道長「『源氏の物語』も、もはや役には立たんのだ。なんとかならんであろうか」 作者であり、一条帝の彰子寵愛の立役者であるまひろに対して、前回に続き随分な言いようである。左大臣として普段は気を張り詰めている分、まひろの前では自然体でいられるのもあって、言葉選びが雑になってないか。 まひろ「物語は人の心を映しますが、人は物語のようにはいきませぬ」 まことに残念ですが、そうしたご要望にはお応えしかねますというカスタマーセンターのような返事に落胆し、道長は帰っていった。 彼を見送ったまひろが書いているのは『源氏物語』41帖「幻」の和歌。 光源氏52歳。紫の上を亡くして新たな年が明けた。多くの年賀の客が現れるが、光源氏は誰とも会わずに、ただただ、愛する女性を苦しませたという後悔の日々を過ごしていた。娘である明石の中宮は、幼い我が子、三の宮(のちの匂宮)が慰めになるだろうと源氏のもとに置いてゆく。春がゆき夏がきて、紫の上の一周忌を済ませたあたりから光源氏は出家のための身辺整理を始める。あまたの女人たちとやり取りした手紙を女房たちに処分させていると、千年もの形見にしたいと取っておいた、紫の上からの文を見つけた。夫婦が唯一離れて暮らしていた須磨での隠遁時代に受け取った、心のこもった手紙。涙がとめどなく溢れ、手紙をすべて焼いてその煙を見送るのであった。 秋が過ぎてまた冬がやってきた。年の暮れの法会で、光源氏は紫の上の死後初めて人前に出る。その姿は光る君と呼ばれた若き日の美しさに更に輝きを増し、昔を知る僧が涙を流すほどだった。 大晦日の夜、孫の三の宮が「追儺(ついな)をするのだ、何で鬼を追い払おうかな」とはしゃいでいるのを光源氏は「出家をしたら、この可愛い姿も見られなくなるな」と見つめる。 もの思ふと過ぐる月日も知らぬまに年も我が世も今日やつきぬる (悩んでばかりいて月日が過ぎることにも気づかない間に、この一年も私の生涯も尽きようとしている) まひろが書いているのは、この和歌。……ついに『源氏物語』がラストを迎えた! 作品を書くきっかけとなった一条帝は既にこの世になく、依頼をした道長には「まだ書いておるのか」と言われた。大人気連載小説を読んだ殿上人たちの熱狂も今は遠い。誰にも見届けられなくとも光源氏の一生を書き上げて、ひとり静かに月明かりを受けるまひろ……お疲れ様です! みんなの代わりに拍手するよ、あなたにとっては必要ないかもしれないけど、私は拍手する! 翌朝、道長が見た、まひろの文机の紙に「雲隠」。 『源氏物語』最終章は、題名だけが今に伝わっている。紫式部がタイトル以外は書かなかったのか、長い年月の間に散逸してしまったのか、それとも当時何か理由があって本文が処分されたのか。後年の他者による後付けだとも、「雲隠」の言葉で光源氏の死を暗示しているなど様々な説があるが、謎である。 このドラマでは「私はこれにてお暇いたします」というメッセージとも取れる。まひろはいない。もうここには戻ってこないのかもしれない。そう悟った道長を襲う頭痛──。
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