90歳建築家語る「早稲田のガウディ」完成の舞台裏。完成見てオーナーが思わず腰抜かす、ラブホと言われた事も
「本来なら画廊が多く集まる銀座や、ファッション・アート系のショップも多い青山、若者の街である下北沢などといった場所を選ぶほうが最適だと思います。とくに“場所”という部分では、早稲田はまったく眼中にありませんでした。あくまで梵寿綱デザインの建物がそこにあったから、というのが理由です」(小原さん) ドラードギャラリーには建物目当てで訪れて画廊に立ち寄る人も多い。都内近郊だけでなく、関西や九州、北海道など全国から人が集まる。まさにドラード和世陀の「建物の力」である。
道行く人が立ち止まって眺め、写真を撮る。映える写真を撮りに来る若い世代も増えた。小原さんは「梵寿綱パワーはすごい」と語る。 ■人の心に触れながらたたずむ抜群の存在感 早稲田のガウディがこの地に立って40年。早稲田大学出身の知人に聞いて回ると、年代問わず「あ、ガウディね」と語り出す。圧倒的な存在感を放つドラード和世陀は、街の風景の一部であり、記憶に残る存在でもあるのだ。 では、改めて建築とは何なのか。建築の在り方について梵さんに聞くと、「責任」という言葉が返ってきた。
「建物には公共的に存在することの責任があると思うの。自分が死んでしまおうがクライアントが死んじまおうが、残っちゃうわけだからさ。それに対する責任をどう取るのか。そのためには、建っているだけじゃなくて、人の心に触れながら、人の心と語り合っていける建築でなければならない」(梵さん) Instagramで「ドラード和世陀」を検索すると、画像や動画が1000件以上も投稿されている。興味深く眺めるだけでなく、共感を求めて発信する場にもなっている。
「共感性を発信する場、心を通わせざるをえない場になっているよね。これは建物の命がつながっていくということ。でも、経済的な理由で壊されちゃうケースも非常に多いわけですけどね」(梵さん) 梵さんの建てた建築はほかにも見ることができるが、残念ながら施主の事情で取り壊されたものもある。 たたずまいやその成り立ちからも生命力を感じずにはいられない「ドラード和世陀」。早稲田の街で、心の琴線に触れる体験をこれからも堪能し続けていきたい。
【前編を読む】異彩放つ「早稲田のガウディ」内部の“特濃”な空間 【そのほかの写真を見る】思わず見入る早稲田のガウディの装飾の数々。中に入ると驚きの光景が広がる。取材を受ける90歳の梵さんの写真も
鈴木 ゆう子 :ライター