社会学者・上野千鶴子:“どうせ変わらない” 世の中を変えていくために
板倉 君枝(ニッポンドットコム)
2024年4月、米誌タイムの「世界で最も影響力のある100人」に選出された上野千鶴子氏。40年超にわたり日本の女性学・ジェンダー研究をけん引してきた上野氏に、「フェミニズムとは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想」だとする考え方の背景と、若い世代に託す思いを聞いた。
「アグネス論争」
上野さんがフェミニズムの論客として注目されるようになったのは、1987年の「アグネス論争」の頃からだ。人気歌手のアグネス・チャンさんが、テレビ番組収録の場に乳児を連れてきたことで賛否両論を巻き起こした。「職場に私生活を持ち込まない」という「美学」を背景に、作家の林真理子さんをはじめ、各界で活躍するキャリアウーマンたちがアグネスさん批判の先陣に立った。その中で、上野さんは敢然と「子連れ出勤」を擁護した。 男性が職場に私生活を持ち込まないですむのは、家事や育児を1人で担う専業主婦の働きがあるからだ。一方で、働く母親たちは、男性優位社会の美学に誤ってがんじがらめにされている。男たちのルールに従う必要はない。それが上野さんの考え方だった。 1988年の流行語大賞にもなったこの論争以降も、上野さんは精力的に言論の場で闘ってきた。 「別に好きで“ケンカ”に強くなったわけではありませんよ」と上野さんはきっぱり言う。「ただ、論理とエビデンスのある言葉は、相手を黙らせることができるのです。(社会的)弱者には、言葉は武器になると知ってほしい。そして、その武器をしっかりと磨いてほしい」
結婚の「わな」にはまらない
2019年、東京大学入学式での祝辞で上野さんは学内や社会の性差別に言及し、「頑張れば報われる」と思えるのは、努力の成果ではなく環境のおかげだと述べた。さらに、恵まれた環境と能力を「自分が勝ち抜くためだけに使わず、恵まれない人々を助けるために使ってください」「強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください」と呼び掛けた。祝辞としては異例の内容で、大きな話題となった。