社会学者・上野千鶴子:“どうせ変わらない” 世の中を変えていくために
ネオリベ改革で非正規が拡大
上野さんは、1995年の「北京女性会議」(第4回世界女性会議)を「行政とフェミニズムの蜜月時代のピーク」とする。「全世界から4万人の女性がNGOフォーラムに集い、うち6千人が日本人女性でした。その多くが、自治体が予算を付けて北京に送り出した草の根の活動家たちです」 バブル崩壊以降、自治体の財政が厳しさを増し、蜜月は終わる。一方、80年代以降、政治家によるネオリベラリズム改革が着々と進んでいた。市場の競争原理を重視し、規制緩和、行政サービス縮小を主眼とする政治経済思想で、根底には均等法と同様の「自己決定、自己責任」の原理がある。 「雇用の規制緩和と景気悪化の中で、家計補助のために働く既婚女性向けに作られた非正規労働市場に、非婚者やシングルマザーが参入しました。その中には、就職氷河期の『団塊ジュニア世代』の若者たちもいます。多くはそのまま非正規に固定され、格差は拡大していきました」
「自己責任」が内面化
1990年代以降、女子の高学歴化が急速に進んだ。 「少子化で、親が教育投資で性差別をしなくなったことが背景にあります。夫や子ども優先ではなく、“自分ファースト”の女性が層をなして登場しました。素晴らしいことですが、一方で、この数十年の間に、若い世代にネオリベの価値観が内面化されたと感じます」 「自分の不遇や困難は自己責任だと思い込まされているので、助けを求めることができない。弱さを認めたくないのです。特にエリート層に顕著です。東大生には自傷系の(メンタルヘルスに問題がある)“メンヘラ”の学生が増えているし、女子には摂食障害も多い。受験戦争の“勝者”は、不安の塊でもあるのです」 「自己責任」原則が強まる中で、経済的に追い詰められているのに助けを拒む女性もいる。 「今では、働く女性の10人に6人が非正規雇用です。コロナ禍では、派遣切りなどの影響を受けた女性の貧困が表面化しました。そんな中でも、生活保護申請を拒むシングルマザーたちがいました。困窮しているのは彼女たちのせいではないのに、自分で何とかするしかないという思いが強いのです」